Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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レオン・フライシャー
 昨夜、ブルーローズ(サントリーホールの小ホール)で、レオン・フライシャーのリサイタルを聴いた。当初のプログラムと大幅な変更があり、その理由を本人がステージ上で述べた。半年前に右手の親指の手術をしたが、回復が遅れているため、右手の負担の少ないプログラムに変えたとのこと。
 この演奏評は、来月発売の「モーストリー・クラシック」に書くことになっている。
 フライシャー(1928〜)はロシア人の父とポーランド人の母を持つアメリカのピアニスト。歴史に名を残す偉大なピアニスト、アルトゥール・シュナーベルに師事したことで知られ、1952年にエリーザベト王妃国際コンクールでアメリカ人として初優勝を遂げ、華々しいキャリアをスタートさせた。だが、キャリアの絶頂期である1965年に突然右手がまひし、両手での演奏ができなくなってしまう。以後40年間は、指揮者、教育者として活動し、ピアニストとしては左手のための作品を数多く演奏してきた。
 そんなフライシャーがさまざまな治療の結果、両手による演奏が可能になったのが2004年のこと。直後にリリースされた「トゥー・ハンズ」(コロムビア)と題したCDは、世界中で大きな話題を呼んだ。このアルバムはJ.S.バッハのカンタータ「主よ、人の望みの喜びよ」(ピアノ編曲版)から始まっている。その演奏は純粋で敬虔で清らか。久しぶりの日本公演もこの曲で始まった。
当時、フライシャーは「ようやく両手での演奏ができるようになったんです。これほどうれしいことはありません。神に感謝しています。私はバッハが大好きなんですよ。苦難の時期にはバッハの音楽が唯一の救いでした。今後の人生はすべて音楽に捧げたいと思っています。作曲家の魂に寄り添うような演奏がしたいんですよ」と静かな口調で語っていた。
 そして、終演後にはいつも1杯のスコッチをおいしそうに飲むのが習慣だが、満足そうな表情でグラスを飲み干すと、こう続けた。
「現在は世のなかがとても騒々しく、時間の流れも速く、人間関係も複雑で心が休まるときがありません。私は人々に音楽で静けさと安らぎを届けたいんです。音楽にはその力があると信じていますから」
 まさにフライシャーのピアノは、聴き手の心に奥にゆったりと語りかけてくる音楽。私はストレスがたまると、いつも決まって何人かの演奏を聴くのだが、フライシャーもそのひとり。あんなに両手で演奏できることを喜んでいたのに、また今回調子が悪くなってしまった。早く回復することを祈るばかりだ。そしてまた、あの胸の奥が痛くなるほど熱い感動を呼び覚ますピアノを聴かせてほしい。

 今日の写真は2007年の来日時に王子ホールのロビーで撮ったもの。演奏が終わり、スコッチも飲み、そしてサイン会も終わって「ようやくひと息」のフライシャー。

| アーティスト・クローズアップ | 23:48 | - | -
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