Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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セルゲイ・シェプキン
 ロシア出身で、1990年にボストンに移り住んだピアニスト、セルゲイ・シェプキンは、J.S.バッハの音楽をこよなく愛す。
 2007年3月にすみだトリフォニーホールで演奏した「ゴルトベルク変奏曲」は、衝撃の演奏ともいうべきものだった。テンポ、主題、フレーズ、ダイナミクス、装飾音、リズム、対位法、構成など、すべてにおいて従来の「ゴルトベルク変奏曲」とは一線を画す斬新さにあふれ、その奥に不思議な静けさが宿っていた。
 私は変奏が進むうちに深い海のなかにもぐっていく感じを受け、脳裏には素潜りの名人、ジャック・マイヨールの姿が浮かんできた。それほど彼のバッハは個性的で、静謐な感覚を備え、聴き手の想像力を喚起するものだった。
 そのシェプキンが2010年11月、再びすみだトリフォニーホールに登場し、ベートーヴェンの「熱情」とムソルグスキーの「展覧会の絵」をメインに据えたリサイタルで、またもや斬新な解釈を披露した。
 その直前にバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の再録音をリリースし、これは世界中に再び衝撃を与えるディスクとなった。初めての録音とは異なり、装飾音やつなぎの音を多く組み込み、あまりにも個性的な仕上がりとなっているからだ。
 そんなシェプキンにインタビューする機会が巡ってきた。ひらめきに満ちた自由で輝かしい演奏をするステージの印象とは異なり、素顔は知的で物静かでおだやかな雰囲気。とてもハンサムで、真摯な受け応えをしてくれる。
「私は『ゴルトベルク変奏曲』を弾くと、いつも故郷のサンクトペテルブルクが浮かんでくるんですよ。建物や町の雰囲気が、私の想像力をかきたてるわけです」
 こういって、シェプキンは故郷をなつかしむような目をした。このインタビューは「intoxicate」の2010年秋号Vol.89に掲載されている。
 彼は、バッハはすべて本能に従って弾いているといい、ひとつひとつの音にとことんこだわると力説した。
「私にとってピアノの音は人間の声であり、魂の叫びなのですから、1音たりともないがしろにはできないのです」
 何度聴いても決して飽きることがなく、もっとバッハの他の作品も聴きたい、他の作曲家の作品も聴きたいと、次々に欲が出てきて止まらなくなるシェプキンの独特なピアニズム。
 今日の写真は、シェプキンがにこやかにバッハ論を語っているときの様子。ねっ、ステージでの驚異的な集中力に富んだ演奏をしているときとは、まったく異なる雰囲気でしょ。このコントラストがまた魅力かも…。
 まだナマの演奏に触れていない人は、ぜひ次回の来日で衝撃の体験を。

 
 
 
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