Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

ブログ

フランシスコ・デ・ゴヤ
 1枚の壁画を見に行くという旅をすることがある。私はジョットとフラ・アンジェリコが好きなのだが、これらの壁画は当然のことながらそこに行かなければ見られないわけで、そのフレスコ画は強い引力を持って旅へと誘う。
 今冬のトラブル続きのスペインの旅では、マドリードの「ゴヤのパンテオン」に出かけた。
 ゴヤの自由自在な天井画と壁画が見られるサン・アントニオ・デ・ラ・フロリーダ礼拝堂で、「5月3日」の銃殺が行われたプリンシペ・ピオの丘近くに位置している。
 礼拝堂は地下鉄のプリンシペ・ピオ駅から徒歩7分ほどのところにあり、ふたつある聖堂の南側がゴヤのパンテオン(霊廟)で、あまり人が訪れないのか、非常にゆっくりと屈指の名画「パドヴァの聖アントニウスの奇蹟」を中心とする全14場面の連作を見ることができた。
 ゴヤはこの大作を一気呵成に約4カ月という短期間で仕上げたという。外界とは遮断された静謐な場所で見上げるようにして鑑賞した天井画と壁画は、聖アントニウスや天使などがいま描かれたような生き生きとしたタッチ、鮮やかな色彩で存在し、時間を忘れるほどの感動をもたらした。
 こういう絵を見ていると、私はいつもどこからか美しく清涼な音楽が聴こえてくるような錯覚を覚える。このときは、アントニオ・ソレールのチェンバロ作品が浮かんできた。日常から離脱し、天上の世界へと心が飛翔するからだろうか。
 堂内には祭壇下にゴヤの墓が置かれていた。ただし、骨相学研究のため首を盗まれてしまい、首のないゴヤの墓となっているそうだ。
 この礼拝堂の前の道路をはさんだ公園には、礼拝堂をじっと見据えるゴヤの像が建てられていて、自身の墓を見守っている。
 近くに寄って顔の表情を見ると、ゴヤは墓に詣でる人たちを眺めているように思えた。
 もう1か所、サン・フランシスコ・エル・グランデ聖堂に足を伸ばし、小祭壇のひとつを飾る「アラゴン王アルフォンソ5世の前で説教するシエナの聖ベルナルディーノ」を見に行った。
 実は、この聖堂のなかはとても広くうす暗く、その絵はすぐには見つからなかった。聖堂内部を拝観していたとき、案内をしている男性が近寄ってきて、「ゴヤに会いたいかい?」と耳打ちした。
 私は「ええ、もちろん!」と答えると、その男性は「着いておいで」と合図し、ある祭壇の前に案内してくれた。そして脇のスイッチを押してこの祭壇画を照らし出したのである。
 そこには岩の上に立つ聖人ベルナルディーノを頂点とした、ピラミッドの構図の絵が輝かしく荘重さをもって描かれていた。そして男性が指差した。
「ほら、ゴヤがいるよ」
 もちろんこの絵は写真などで見て知っていたが、大きな画面の右端にアラゴン王の従者に扮したゴヤ自身がこちらを向いて立っている様子は、まさにリアリティあふれるもので、絵のなかでそこだけ異なった光を放っているように感じられた。これが画家の存在感の強さだろうか。
 今回のゴヤの絵は、やはり現地に行かなければ会えないもので、問題の多い旅だっただけに非常に印象が強かった。
 また、1枚の絵に会いに行く旅をしたい。

 今日の写真は上がサン・アントニオ・デ・ラ・フロリーダ礼拝堂、中が聖堂前のゴヤの像、下がサン・フランシスコ・エル・グランデ聖堂。





| 麗しき旅の記憶 | 22:42 | - | -
CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< April 2011 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE