Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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クリストフ・エッシェンバッハ
 昨夜は、サントリーホールにウィーン・フィルのコンサートを聴きに行った。指揮はクリストフ・エッシェンバッハ、ピアノ・ソロはラン・ラン。
 ラン・ランのリストのピアノ協奏曲第1番は、音のダイナミズムの幅広い躍動感あふれるもので、先日NHKホールで聴いたアントニオ・パッパーノ指揮ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団との共演によるボリス・ベレゾフスキーの圧倒的なスケールを誇る同曲とは、まったく解釈も奏法も異なる演奏だった。
 今年のリスト・イヤーには数多くのリストの作品を聴くことができるが、こうした同じ作品を聴きくらべることができるのも、メモリアルイヤーならではの楽しみだ。
 そんなラン・ランは、アンコールのときにエッシェンバッハと手をつないで現れ、ふたりは連弾を始めた。ドビュッシーの「小組曲」より「小舟にて」「バレエ」である。
 エッシェンバッハのピアノは、何年ぶりに聴いただろうか。
 コンサートの後半はシューマンの交響曲第2番、そして最後にJ.シュトラウス兇痢峭陳覬濾餠福廚演奏されたが、私の脳裏には何十年も前のエッシェンバッハとの初めての出会いがフラッシュバックのように現れては消え、また現れ、胸がいっぱいになってしまった。
 あれは私がレコード会社に入ったばかりのころで、上司からエッシェンバッハのレコード店でのサイン会の打ち合わせに行くよう指示された。
 宿泊先のホテルに着いた私は、ホテル内の電話でエッシェンバッハに連絡をとった。だが、すごくあわてている様子で、何度もいいわけをしている。だが、まだ若かった私はそのいいわけの意味が十分に理解できず、とにかく「お部屋に行きます」といってしまった。
 部屋に着いたとき、顔をのぞかせたエッシェンバッハは、あたふたと浴衣をはおったようで、私は一瞬にしてその状況を把握した。彼はシャワーを浴びていたのである。
 私はまともに顔を上げられず、用件だけいって色紙を何枚か押し付け、ずっと下を向いたまま退散した。
 その一部始終を上司に報告したところ、彼は大爆笑し、このニュースは何分もしないうちに会社中に知れ渡るところとなった。
「今度クラシックに入った新人の女の子は、エッシェンバッハのほとんど何も着ていない姿を見たんだってよ」
 話は尾ひれがつき、とんでもないうわさとなって広がっていった。以後、私はどこに行ってもその詳細を聞かれ、うわさを否定するのに躍起になったものだ。
 当のエッシェンバッハは、翌日のサイン会のときに隅に立っている私を見て、ニヤリと笑い、ウインクをした。これを見て、れいのうわさにまた尾ひれがついたのはいうまでもない。ヤレヤレ…。
 あれからかなりの年月が経過し、いまやエッシェンバッハは実力と人気を誇るマエストロになった。私は過去はあまり振りかえらないタチだが、久しぶりにエッシェンバッハのピアノを聴き、ウィーン・フィルからすばらしい演奏を引き出す指揮法を間近にしているうちに、昔の自分にタイムスリップしてしまった。これも音楽の持つ力なのかもしれない。
 これまで失態は何度も演じてきたが、昨夜はそのときの上司や仲間の顔までが鮮明に浮かんできて、失敗を笑い飛ばしてくれた上司が妙になつかしくなった。
 
| 終わりよければ…取材奮闘記 | 13:48 | - | -
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