Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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イダ・ヘンデル
 指揮者やピアニストは長命で、演奏活動の非常に長い人も多いとされるが、ポーランド出身でイギリスで長く活躍しているヴァイオリニスト、イダ・ヘンデルも80歳を超えてなお現役である。
 彼女は歴史に名を残すカール・フレッシュやジョルジュ・エネスコに師事し、1991年にはイギリスでCBEを受勲しているほどの偉大なアーティストだが、素顔はとても気さくで人なつこい。
 写真撮影になるとしきりに髪型を気にしたり、「顔、変じゃない?」などと私に聞き、「大丈夫ですよ」というと乙女のような笑顔を向ける。
 こうした長年の歴史、偉大な足跡を感じさせるアーティストに会うと、身が引き締まる思いがすると同時に、生きる活力を与えられる。
「インタビュー・アーカイヴ」第30回はそのイダ・ヘンデル。とても印象に残るインタビューだった。

[muse'e 2004年1月号]

人生のあらゆることに好奇心をもつこと!

「あなたが長年演奏を続け、しかも常に聴き手を深い感動に導く、そのエネルギーのもとは、いったい何なのですか?」
 こう質問した私に、イダ・ヘンデルはごくシンプルな答えを返した。
「人生のすべてに興味を抱いているからよ」
 彼女は、オペラや芝居をはじめとする芸術、さらに生きていく上で遭遇するあらゆること、多くの人との出会い、さらにファッションなどにもいつも好奇心をもって接するという。
「自分の気持ちの赴くまま、自然に生きることがモットーなの。子どものころからずっとそうだったわ。自分を表現することが好きだった。子どもってみんなそうでしょ。私の場合、それがヴァイオリンを弾くことだったわけ」
 3歳からヴァイオリンを始め、7歳でカール・フレッシュに弟子入り。やがてジョルジュ・エネスコに師事する。初めてオーケストラと共演したのも7歳のとき。オランダでメンデルスゾーンのコンチェルトを演奏した。そして9歳でベートーヴェン、10歳でブラームスのコンチェルトを演奏する。
「このころから、ブラームスがすごく自分の心に近い存在だと気づいたの。いまでもブラームスを弾くたびに作品のすばらしさを実感する。フレッシュやエネスコから学んだもっとも大切なことは、作曲家に敬意を抱くこと。楽譜からすべてを読み取り、それをあるがまま演奏すること。よくマスタークラスの生徒から『一日どのくらい練習したらいいか』と聞かれるけど、時間じゃないの。どれだけ作曲家に近づくことができるかが大事なの」
 イダ・ヘンデルの演奏は、実に自然体。作品と真摯に向き合い、その深い部分に入り込んでいく。派手なパフォーマンスもなければ、超絶技巧を見せつけることもない。エレガントで高潔でぬくもりが感じられる。
 ポーランドに生まれ、戦争を体験し、さまざまな試練を乗り越えてきた彼女はいま、「人生のすべてを愛している」と悠然と語る。凛とした演奏と相まって、そのことばは力を与えてくれる。
「また、5月に日本に戻ってくるのも楽しみよ」
 友人のマルタ・アルゲリッチに、「別府アルゲリッチ音楽祭」への参加を要請されたのだという。アルゲリッチとはよくベートーヴェンのトリオで共演しているのだそうだ。
「共演する音楽家からはいろんなことを学ぶわね。チェリビダッケからは冷静に作品を分析し、知性を働かせることを学んだ。私はそれまで自分の本能の赴くままに演奏していたから。フレッシュはフィンガリングの大切さをいつもこまかく教えてくれたけど、それもあらゆることを考慮した上で決めること。音楽に終着点はない。私はこれからもずっと作品のすばらしさを学び続けていくつもり」
 現在は、愛犬Deccaとアメリカに暮らす。
「初めてDeccaと録音契約したとき、スタッフがクリスマスに犬を贈ってくれたの。もう何代目にもなるけど、名前はずっとDecca。別府に連れてきたいんだけど、何かいい方法ない?」

 今日の写真はその雑誌の一部。彼女は本気で愛犬との同行を考えていた。その話をするときも、とってもチャーミング。愛すべきすばらしいキャラクターの持ち主である。もちろん、演奏も喜怒哀楽の感情がストレートに伝わるもの。
 イダ・ヘンデルにはその何年か後に東京のホテルのロビーでばったり会い、再会を喜んだ覚えがある。また、ぜひ会いたい人である。


  

| インタビュー・アーカイヴ | 23:13 | - | -
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