Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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アルバン・ベルク四重奏団
 すでに解散してしまったが、アルバン・ベルク四重奏団のあの研ぎ澄まされた完璧なるアンサンブルは、いまだ耳の奥に強い印象となって居座っている。
 第1ヴァイオリンを担当していたリーダーのギュンター・ピヒラーにインタビューしたときのことも、はっきり覚えている。彼はとても前向きで完璧主義者で、その姿勢から学ぶことはとても多かった。
 インタビュー・アーカイヴ第38回はそのピヒラーの登場。

 
[レコパル 1991年9月2日〜15日 No.19]

世界最高峰のアンサンブルが創り出す音の小宇宙

 モーツァルトがハイドンの作曲した弦楽四重奏曲「ロシア・セット」に触発されて弦楽四重奏曲の傑作「ハイドン・セット」の6曲を完成したのは1785年1月、29歳のことだった。
 弦楽四重奏曲というのは、どの作曲家もとてもシリアスな作品が多いが、モーツァルトの場合もしかり。演奏者は高度な技術と深い音楽性を要求される。
 現在世界最高のアンサンブルといわれるアルバン・ベルク四重奏団は、この「ハイドン・セット」を含む後期の10曲を10数年ぶりにレコーディング。これは現在のメンバーになってからの初録音である。
 ここに聴く第16、17番はまさに彼らの4つの弦がひとつに集積して、まるで音の小宇宙を形成しているようだ。アルバン・ベルク四重奏団はよく完璧な演奏をするといわれる。音楽において“完璧”なんてありうるのだろうか。あるとしたら、それはとてもつまらない演奏なんじゃないかと常々私は考えていた。
 けれども、1989年の来日の際、彼らのシュニトケの弦楽四重奏曲第4番の日本初演を聴いて、完璧でありながら、感動を呼び起こす演奏があることがよくわかった。彼らはまったく非の打ちどころのないすばらしく感動的なシュニトケを披露したのである。
 その日はモーツァルトの弦楽四重奏曲第18番でスタートした。この出だしの第1音から心がピーンと張り詰め、ふだん味わうことのできない緊張感に満ちたモーツァルトが体験できたのを思い出す。
 今回の「狩」の冒頭の角笛を連想させる音型を聴いたときに、あのときの緊張感が一瞬にして蘇ってきた。ああ、この完璧なアンサンブル、同質の4弦の響き、鍛え抜かれたテクニック、これこそウィーンの伝統の音色だと。
 ウィーンかぶれの私が彼らの音でほろ酔い気分になっているときに、第1ヴァイオリンのギュンター・ピヒラーがN響を指揮するために単独来日。さっそく、モーツァルト観を聞きに出かけた。

「リハーサルでは納得がいくまで音楽論を戦かわす」

 素顔のピヒラーは、とても人なつこい真っ青な目をした人。彼らの演奏が完璧であるにもかかわらず、胸の奥に強く訴えてくるのが、その澄んだ目を見て理解できたような気がした。
「モーツァルトの音楽は非常に明確ですから、それぞれの楽器の音が全部きれいにクリアーに聴こえなくてはなりません。これは非常に難しいことです。古典派の音楽というものは、個人の感情をいっさいはさめなかった。それがロマン派になると、個人的感情を含めて表現するようになった。モーツァルトは古典派からロマン派への移行期の人ですが、彼の作品は後期になっても演奏のスタイルは古典派のままで、ただし表現に関しては個人的感情を表しているように思えるのです。ですから、演奏者は古典のスタイルを守りつつ、かなりエモーショナルな表現をしなくてはなりません」
 アルバン・ベルク四重奏団の4人は、リハーサルの最中にとことん納得がいくまで音楽論を戦わすという。そして、ふだんの生活はまったく干渉し合わないのが彼らの流儀だそうだ。
「最近は、特に技術的に完全であることを問われる時代になってきています。それにプラスして4人の個性、個人の音楽の解釈を大切に考えなくてはなりません。そしてそれらを常に新鮮に保っていかなくてはいけない。私も20年間、室内楽一本できましたので、表現力とかアイデアを新鮮に保つため、もっと他のものに挑戦しなくてはならない時期だと思い、指揮を始めました」 
 彼は1994年まで指揮の予約がいっぱいなんだ、といってうれしそうな表情を見せた。「いまの夢はヨーロッパの室内オーケストラから最高のものを引き出すこと」と語るピヒラー。
 弦楽四重奏団でトップを極めた彼のこと、次なる目標の達成も遠い日のことではないのでは…。

 アルバン・ベルク四重奏団とはその後も会い、あるときヨーヨー・マの取材で大阪に出張した際に、パッタリ4人に駅で会うという驚きの瞬間も。そのときにはチェロのバレンティン・エルベンが「やあ、偶然だねえ。実は、私がいま使っているのはヨーヨー・マが以前弾いていた楽器なんだよ」といって、しばし駅構内で話がはずんでしまった。
 それもいまとなってはいい思い出である。
 今日の写真はそのときの雑誌の一部。当時は次々に新譜がリリースされていた。

| インタビュー・アーカイヴ | 22:53 | - | -
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