Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ダン・タイ・ソン
 昨夜は、すみだトリフォニーホールで行われているダン・タイ・ソンの「ロシア・ピアニズムの継承者たち 第7回 ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全曲演奏会」の第1夜を聴きに出かけた。
 プログラムは第1番、第2番、第3番。2日目が第4番、第5番「皇帝」となっている。
 ダン・タイ・ソンはベートーヴェンのピアノ協奏曲を各地で何度も演奏しているが、全曲演奏は初めての挑戦。以前それについてインタビューしたところ、目を輝かせて雄弁に語ってくれた。
「昔はからだが細く、大きな作品を弾くことに苦労しましたが、いまは体重が増え、ピアノに向かう姿勢も改良され、ロシア作品やベートーヴェンを弾くことが可能になりました」
 彼はモスクワ音楽院でウラディーミル・ナタンソンに師事し、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの基礎をじっくりと伝授されている。ナタンソンは生前、「私の夢は、きみがベートーヴェンだけのプログラムで演奏会を開けるようになることなんだよ」といっていたという。
「ですから今回、ピアノ協奏曲全曲演奏のオファーをいただいたとき、とても驚き、次第にそれが喜びに変わり、ナタンソン先生へのオマージュになると思ったのです。私にとって、このベートーヴェンは、特別な意味を持っています」
 そのことば通り、第1番から第3番まで、ダン・タイ・ソンは特有の静けさとおだやかさを感じさせる美音を遺憾なく発揮し、作品全体を俯瞰する目を備え、ときにロマン豊かに、またあるときは陰りや苦悩をにじませ、躍動感と清涼感をちりばめ、作曲家に敬意を表す演奏を展開した。
 特に各曲の緩除楽章が印象的で、目の前に美しい自然が広がるような、えもいわれぬ美しい情景を描き出した。
「ベートーヴェンの緩除楽章は天上の音楽です。まるでコラールのように感じられます。ここでは音色の変化、ペダリングの工夫、フレーズのとらえかた、主題の歌わせかたなど、さまざまな面に繊細な神経を張り巡らさねばなりません」
 だが、ダン・タイ・ソンのベートーヴェンは、全体の構成は確固たるものがあり、全体が一本芯の通った表現で有機的に結びついていた。
「これらの作品は、マラソンのようです。決して短距離走ではないですね。ベートーヴェンの作品は体力、気力、意識がしっかりしていないと、最後まで聴衆の心を引き付けながら進むことはできません。決して寄り道せずに、目的に向かって一心に進むべき作品だと思います」
 彼はナタンソンの後、ウラディーミル・バシュキーロフに師事してロシア・ピアニズムの真髄を学んだ。それがいま大きな成果を示している。
「バシュキーロフ先生からは、からだ作りも教えてもらいました。ベートーヴェンのピアノ協奏曲を5曲演奏するためには、体幹がしっかりしていないと弾けません。いまはそれができましたので、安定した姿勢で弾くことができます」
 ダン・タイ・ソンの演奏は、聴くたびに成熟度が増し、磨き抜かれた音色が心に沁み入り、感動が新たになる。
 彼は常に挑戦したいと語っているが、さて、次はどんな挑戦を見せてくれるのだろうか。心が浄化するような昨日のベートーヴェンは、いまなお胸の奥で静かな歌を歌い続けている。 
| クラシックを愛す | 14:57 | - | -
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