Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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フランツ・ウェルザー=メスト
 先日のウィーンとベルリン出張では、いくつかオペラを観たり、コンサートに行くことができた。
 10月2日には、ウィーン国立歌劇場でプッチーニの歌劇「西部の娘」のゲネプロを観た。指揮はフランツ・ウェルザー=メスト、演奏はウィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団。主役のミニーはニーナ・シュテンメ、そしてジョンソンをうたったのが、ヨナス・カウフマンである。
 この指揮を見ながら、以前ウェルザー=メストにインタビューしたことが思い出された。
 インタビュー・アーカイヴの第52回はそのウェルザー=メストの登場。これは1992年のインタビューで、当時ウェルザー=メストはロンドン・フィルの音楽監督を務めていた。1990年にこのポジションに大抜擢され、一躍世界のひのき舞台に躍り出た若手指揮者として、大きな注目を集めていた時代だ。

[FMレコパル 1992年3月20日〜4月12日号]
 
期待の新鋭が聴かせる、エネルギーに満ちたブルックナー

 1990年秋、イギリスの名門オーケストラ、ロンドン・フィルの音楽監督に弱冠30歳で任命されて話題を呼んだオーストリア出身のウェルザー=メストが同オーケストラとともに初来日を果たした。
 来日記念盤としてリリースされたブルックナーの交響曲第7番は、従来のブルックナーとはガラッと解釈の異なる独特の現代的な演奏。
 ブルックナー晩年の傑作であるこの第7番は、どちらかというと他の交響曲よりは明るい作風をもっているが、敬愛するワーグナーの訃報を耳にしてその悲しみのなかで書かれた第2楽章などは、特に最後のホルンの響きに追悼の意味合いが含まれていて、聴き手は寂寥とした気持ちにさせられるのがふつうである。
 だが、ウェルザー=メストの演奏は単なる寂しさや悲しさの表現ではなく、その悲しみの淵から一歩出て新しいものを見出そうとするかのようなエネルギーに満ちている。全体に音楽が停滞せず、常にフットワーク軽く前進していく感じなのだ。
 ブルックナーを聴くときに抱くあの宗教的な雰囲気や、重々しい音の重なりなどはあまり聴こえてこない。深い祈りが日常化されて、ごく自然の行為となっているかのようにさらりと流れてくる。

より前衛的で革新的なブルックナーの音楽

 ウェルザー=メストはブルックナーと同じリンツの出身。彼は幼いころからここでブルックナーの音楽に親しんできた。
「最初にブルックナーの音楽と出会ったのは、ぼくが教会の聖歌隊でうたっていた8歳のころでした。交響曲ではなく宗教曲でしたが、なんて退屈な音楽なんだろうと思いましたよ(笑)。それが10歳になったときに学生オーケストラの演奏する交響曲第7番を初めて聴いて、その美しい響きにすっかり魅せられてしまったのです」
 以後、ブルックナーのとりことなってしまった彼は、いままで第2番を除くすべての交響曲を指揮している。初めてプロの指揮者として振ったのは第5番で、このときは24歳だった。それ以来、何度もブルックナーを振ってきたが、もっとも好きな交響曲は第6番だそうだ。
 ブルックナーの作品は初演当時からさまざまな人の手が加えられ、改訂や削除が行われている。それゆえ楽譜もいくつかの種類があり、今回ウェルザー=メストはノバーク版を使用。この楽譜は作曲者のオリジナルにもっとも忠実だと彼はいう。
 ブルックナーはとても人がよく、シャイなタイプだったため、きっとまわりの人々の意見を素直に受け入れてしまったのではないかというのがウェルザー=メストの考え。だからブルックナーの最初の手書き楽譜にさまざまな手が加えられ、いくつもの版が生まれてしまった。
 ウェルザー=メストはこうした理由により、以前からブルックナーのオリジナルの楽譜を調べている。
「ブルックナーの音楽は、一般に思われているよりはもっと前衛的で革新的なものだと思います。交響曲第4番の最初の楽譜を読むと、とても革新的な音楽がそこにあるのを感じます。それを当時の人は理解できなかったから、いろいろ批評して改訂してしまったのでしょう」
 だからウェルザー=メストの演奏は、こんなにもモダンな感覚がするのだろうか。第7番はワーグナーへの思いを別にすれば、ブルックナー特有の宗教色はより濃厚に記されている作品。最終楽章に、それはオルガン的な響きとなって現れる。ここでウェルザー=メストは、スピード感あふれるスケールの大きなフィナーレを展開。切々と訴えるというよりは、むしろ自らがブルックナーの楽譜から読みとった革新的な断面を音に託し、聴き手の耳を新たに開かせようとするような、そんな音楽作りをしている。
 革新的な音楽というものは、常にその時代には認められないものである。ブルックナーの作品は1世紀余りを経たいま、同郷の若手指揮者によって新たな生命が吹き込まれている。

親しい仲間と室内楽でヴィオラを弾くのが楽しみ

 研究心旺盛なウェルザー=メストは、ロンドン・フィルをなんとかベルリン・フィルやウィーン・フィルに近づけたいと日夜努力している。音楽監督に任命されたときは、ドイツのことわざにあるように「靴を履きまちがえたんじゃないかと思った」そうだが、いまやレパートリーの拡大からオーケストラの経済問題にまで真剣に取り組んでいる。
 今回の来日公演ではクラウス・テンシュテットが倒れ、急きょその分まで指揮するという大役をこなしたが、その体力作りは大好きなマラソンで培っている。
「東京に着いた初日に、皇居のまわりを6マイル走ったんですよ」
 こう豪語する彼は、来年あたり時間がとれたらロンドン・マラソンに参加したいと力強い抱負を語ってくれた。

 今日の写真は、その雑誌の一部。先日指揮していたウェルザー=メストは、まったく体型が変わっていなかった。これもマラソンのおかげ(?)。

| インタビュー・アーカイヴ | 22:05 | - | -
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