Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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フレディ・ケンプ
 久しぶりにあるアーティストの演奏を聴き、その成長ぶりに驚かされるとともに、非常にうれしい思いがこみ上げてくることがある。
 昨夜聴いたフレディ・ケンプの演奏が、まさにそうだった。
 ケンプは、1998年のチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第3位入賞を果たし、聴衆賞も受賞した。
 スケールの大きな華やかさを備えた演奏と甘いマスクで大きな人気を得、一躍「コンクールのヒーロー」と絶賛された。
 ここからが彼の苦難の道となる。どこにいってもコンクール入賞者としての演奏を聴きにくる人ばかりで、「フレディ・ケンプ」その人の名前は二の次。
 当時から何度かインタビューを重ねたが、いつもそのことで悩んでいた。
「いつになったら、自分の名で勝負できるようになるのでしょうか」
 だが、日本の血を引くケンプは完全なるワーカホリックで、年間100回以上のコンサートをこなし、実力を磨いていった。
 いつも会うたびに非常に真面目で、音楽ひと筋。来日公演をとても大切に考え、同じ作品を弾くことを極力避け、新たな面を提示していた。
 そんなケンプに関して、今回プログラムの原稿を書くことになった。これまでのインタビューの内容や演奏を聴いてきたことを交えて綴ったが、久しぶりに演奏を聴くことを楽しみにしていた。
 今回は得意とするベートーヴェンのピアノ・ソナタから第30番作品109を選び、特有の情感あふれる美音でベートーヴェンのロマンを浮き彫りにした。
 シューマンも2曲組まれ、前半の終わりに「幻想小曲集」、後半の最初に「トッカータ」が演奏された。
 まさにシューマンはケンプのけっして鍵盤をたたかない、絶妙のペダリングを使用する美しい響きによく似合っていた。
 そして最後はムソルグスキーの「展覧会の絵」が演奏されたが、これまで聴いてきたこの曲とは一線を画し、美しい絵巻物を繰り広げるような表現だった。
 この公演評は、10月掲載の「公明新聞」に書く予定になっている。
 確かな成長と、大きな自信と安定感、さらに表現力の深さを増したフレディ・ケンプの演奏。次回の来日には、ぜひまた話を聞いてみたいと気持ちが湧いてきた。
 国際コンクール入賞後、自分の道を着実に歩み続け、中堅の実力派となるアーティストはけっして多くはない。フレディ・ケンプは、そうしたなかで苦難の時代を経て「自分の道」を見つけた。さらに聴き続けていきたいと思うピアニストである。
 もっとも印象に残ったのは、アンコールの最後に弾かれたベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第2楽章。この緩徐楽章は、アダージョ・カンタービレと表記されている。ケンプは内声部の美しさを際立たせながら、おだやかに息の長いフレーズをゆったりとうたわせ、豊かな詩情をたたえた旋律を静けさをもって弾き進めた。これを聴くことにより、彼の「いま」の充実ぶりがより深く理解できた。今後が楽しみだ。
| クラシックを愛す | 22:43 | - | -
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