Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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サンソン・フランソワ
 今週公開のヤマハのWEB「音楽ジャーナリスト&ライターの眼」のテーマは、サンソン・フランソワ。彼の名を口にしただけで、私はどこか異次元の世界に運ばれていくような不思議な感覚にとらわれるほど、このピアニストに魅了されている。
 HPの各コンテンツの左下のバナーからアクセスできるので、ぜひ読んでいただきたいと思う。
 フランソワのピアノは、限りないファンタジーとロマンと馨しい香りを備え、聴き手を夢見心地にしてくれる。
 現在は、ピアニストは若いうちから幅広いレパートリーを身に着けることを余儀なくされる。しかし、フランソワは本当に自分が弾きたいと思う作曲家の作品しか演奏しようとしなかった。
 モーツァルトはあまりにも自分に近いと考え、近づこうとしなかったし、ベートーヴェンやブラームスは敬遠していた。その代わり、ショパンを熱愛し、ドビュッシーやラヴェルを愛奏し、リスト、プロコフィエフ、シューマンのコンチェルトをワールドツアーで何度も演奏した。
 フランソワは神童として幼いころからピアノに天才性を示し、自由奔放な性格でイヴォンヌ・ルフェビュールやマルグリット・ロンらの先生を困惑させたが、まさにその人間性を映し出す演奏が大きな魅力となっている。
 たとえばショパン。フランソワの弾くショパンのバラードやスケルツォは霊感にあふれ、即興性も感じられ、自然ながら独創性に満ちたルバートは、ため息がこぼれるほどに美しい。ワルツもポロネーズもノクターンも、だれの演奏にも似ていない唯一無二のもので、ショパン自身が聴いても納得したであろう個性と自由と自然な空気が息づいている。
 ラヴェルの音楽もまた、フランソワで聴くと作曲家のすばらしさを改めて知らされる。ラヴェルはこまやかで知的で洗練された作品を書き、その奥にはユーモアとウイットが潜んでいる。その真髄をフランソワは鋭敏な感性で嗅ぎ取り、イマジネーション豊かなラヴェルの世界を絵巻物のように繰り広げる。そこからは19世紀末のパリの空気、一種のデカダンスの雰囲気もただよってくる。
 ドビュッシーもまた、特有の色彩感とひらめき、魔法のような音色で演奏される。聴き慣れた作品をフランソワの録音で聴き直すと、まるで違った音の世界が広がり、古典的な奏法でありながら、いつの時代でも決して古さを感じさせないみずみずしさと妖艶さがただよっていることに驚きを覚える。
 弟子を持たなかったフランソワに7年間も師事したというブルーノ・リグットに話を聞いたことがあるが、フランソワのレッスンを終えると、あたかもモーツァルトやショパンに会ったように興奮したそうだ。フランソワは文学や絵画を例にとり、小節線にとらわれないようにといい、歌手のように旋律を歌わせる大切さを教えてくれたという。
 お酒とタバコとコーヒーを大量に摂取し、ジャズを愛し、作曲や詩作を行ったフランソワ。46年の濃密な人生のなかで残された録音は聴き手の心を高揚させ、至福のときを味あわせてくれる。それは貴重な遺産であり、私の宝物であり、生涯の心の友でもある。
 今日の写真は、最近リマスタリングにより新たにリリースされた、ショパンの夜想曲(ワーナー)。1966年の録音だが、見事なまでに馨しい香りを放っている。


| マイ・フェイバリット・ピアニスト | 22:27 | - | -
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