Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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小川典子
 小川典子との出会いは、1987年秋。場所はイギリスで開催された第9回リーズ国際ピアノコンクール。彼女はここで第3位入賞を果たし、以後ロンドンと東京を拠点として世界的に幅広く活躍するようになる。
 小川典子はいつも飾らず気負わず自然体。語り口は端的でクリア。自分に正直で、音楽に対しても凛とした姿勢を崩さない。
 演奏は非常にエネルギッシュでスケール大きく、冒険心にあふれているが、近年はそこに内省的な響きが加わり、音楽がより深くなった。
 そんな彼女には長年インタビューを行い、さまざまな話を聞いてきたが、いつも私の脳裏にはリーズ・コンクールのときのひたむきな演奏が浮かんでくる。最初に聴いた演奏というのは、インパクトの強いものなのである。彼女はこのコンクールをステップとし、イギリスに居を定め、さまざまな苦難を乗り越えながら今日の確固たる地位を築き上げた。
 もう3年半ほど前になるだろうか。私はある仕事で人間関係がうまくいかず、ものすごく落ち込んでいた。そんなときに小川典子の取材が入ったが、私的な感情は表面に出さず、無事に仕事を終えた。すると、彼女が腕を引っ張って部屋の隅へと私をいざなった。
「ねえ、何かあったの? 顔が変よ。私にはわかるんだから。よかったら聞くけど…」
 私は「しまった」と思った。隠しているつもりだったのに、彼女にはわかってしまったからだ。
 時間もなかったためおおまかなことだけ話し、その日は別れた。すると後日、ロンドンからていねいで心のこもった励ましの手紙が送られてきた。小川典子も、ここまでくるのに言葉ではいえないほどの苦労を経験している。その彼女の励ましは、決して文字数は多くなかったが、涙が出るほど心に響くものだった。これで私はどん底から這い出ることができたのである。
 でも、次に会ったときには、もう彼女は何もなかったような顔をしている。私ももう引きずらない。
「お互いにいい仕事をしようね」
 彼女の瞳が私にそう語りかけていたのがわかったからだ。
 そして2010年のクリスマス。またインタビューをすることになった。小川典子はいま取り組んでいるベートーヴェンについてエネルギッシュに語った。このインタビューは「ムジカノーヴァ」の2011年2月号に掲載されている。
 そのときに、ロンドンで焼いて持ってきたというフルーツケーキをごちそうになった。いわゆるヨーロッパのクリスマスに登場するさまざまなドライフルーツの入ったどっしりとしたケーキである。このおいしさときたら…。カメラマンと編集者は男性なのでおかわりをしていたが、私はひと切れでやめておいた。でも、そのあとに他の仕事が入っていたため、その人たち用にと、もうひと切れいただいた。
 ただし、その後の仕事ではあまりにも多くの人がいたため、出しそびれてしまった。というわけで、結局このひと切れは自宅に「お持ち帰り」となった次第だ。小川さん、ごちそうさま! 頬がゆるんで、ついにんまりしてしまうほどのおいしさでしたよ。また食べたいな(笑)。



 
  
| 親しき友との語らい | 18:07 | - | -
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