Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ワレリー・ゲルギエフ
 ロシアの指揮者、ワレリー・ゲルギエフはエネルギーのかたまりである。睡眠や食事の時間を削って音楽にすべてを賭け、秒刻みで過密なスケジュールをこなす。それゆえ、インタビューはいつもごく短時間。リハーサルの合間とか、本番前などということもある。
 2008年2月マリインスキー・オペラとともに来日し、ボロディンの歌劇「イーゴリ公」を上演したが、このときのインタビューも、リハーサルと本番の間のほんのちょっとした休憩時間を利用するというものだった。
 これは一般誌「ATES」の巻頭カラーページのインタビューだったため、編集者とカメラマンと私はかなり前からホールに詰め、リハーサルが終了するのをいまかいまかと待っていた。
 案の定、リハーサルは大幅に長引き、本番の時間は決まっているから、インタビューの時間は徐々に少なくなっていく。みな気が気ではない。
 ようやく楽屋に戻ってきたゲルギエフは、汗びっしょり。
「遅くなって申し訳ない。完璧にできないところがあって、納得いくまでリハーサルを繰り返していたので、こんな時間になってしまったんです。さあ、何から話す?  すぐに始めましょうか」
 ゲルギエフは目力の強い人である。顔も全体に濃い。話もテンポが速く、一気に言葉が飛び出してくる。
 彼がロシア帝国の首都、サンクトペテルブルクを代表するオペラとバレエの劇場、マリインスキー劇場の芸術総監督を任されたのは1988年、35歳のとき。まだロシアが経済的に混沌としていた時期で、予算も十分ではなかった。劇場に携わる全員が意気消沈していたが、そんな彼らに向かい、ゲルギエフは胸の内を明かした。
「資金調達は任せてくれ。みんなは音楽に集中して、成果を出してほしい。困難な時代だからこそ、人々は芸術を求めている。必死でいいものを作り出せば、いまに世界がこの劇場を招いてくれるようになる。そのときにロシア魂を示そうじゃないか」
 彼は政府や企業に掛け合って予算を確保し、演目の幅を広げ、海外公演も積極的に行っていく。いまでは世界各地のオペラハウス、コンサートホールのなかで、もっとも海外公演の多い劇場となっている。
 そして2007年には新コンサートホールをオープンさせ、次に新たなオペラハウス建設にも着手した。
「私はサンクトペテルブルクを文化と芸術の発信地にしたいんですよ。古都に新たな風を吹き込みたいのです。いま、世界中でクラシック離れが進んでいます。それを止めるためには常に時代に合った新しい試みが必要です」
 ゲルギエフは寸暇を惜しんで融資を求めて飛び回る。その姿を見て、劇場のみんなが一致団結していい音楽を作り出そうとがんばっている。
 そんなゲルギエフとマリインスキー・オペラは、いま来日中。先日のR.シュトラウスの歌劇「影のない女」は長い上演時間を要する作品だったが、一瞬たりとも聴き手を飽きさせることなく、作品の内奥へといざなう集中力と存在感あふれる演奏だった。特にバラクの妻を歌ったオリガ・セルゲーエワが圧倒的な声量と表現力を発揮、役になりきった演技も秀逸だった。
 実は、ゲルギエフは食事をとるのも速い。インタビュー中に「食べながらでいいかなあ」とマエストロ。「もちろんどうぞ」と私。
 すると出前が運ばれてきた。それを食べながらしっかりインタビューに答える。しかも、うな丼と海老フライ定食をたいらげ、お味噌汁とお茶を飲み、楽屋の外で写真撮影も行った。この間、わずか20分。すごすぎる…。
「じゃ、本番だから。オペラ、楽しんで聴いてね」といい残して、着替えのために楽屋に消えた。ああ、こっちが汗びっしょりだ。 

| 終わりよければ…取材奮闘記 | 22:41 | - | -
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