Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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パーシー・アドロン
 映画「マーラー 君に捧げるアダージョ」のパーシー・アドロン監督に話を聞いたのは、2月初頭のことだった。
 監督はマーラーの音楽との出合い、映画を作ろうと思ったきっかけ、配役に関することからバックに流す音楽まで非常にこまかく話してくれたが、もっとも印象に残ったのは「女性の生きかた」についての話だった。
 アドロン監督は、「私はマーラーというよりも、むしろ妻アルマの生きかたをクローズアップしたかった」と語った。
 このインタビューは、現在発売中の「フィガロ・ジャポン」に掲載されている。
 監督はひと通りインタビューが終わると、「きみは自分の才能をきちんと理解し、仕事に生かしているかい?」と私に聞いた。
「それはいつも私の悩みです。ただし、アルマの時代より現代は女性が仕事をしやすい時代になりましたから、ある程度は生かしていると思います。ただし、映画を見てもう一度考え直したいという気になりました」
 そう答えると、監督は「そうか、そう思ってもらえるとうれしいね。現代社会は才能豊かな女性がたくさんいて、みんな一生懸命仕事をしている。でも、みんなが自分の才能を存分に生かしているとはいいきれない。私は映画を通じて、世界中の女性に自分の人生をもう一度見つめ直してほしいと思っているんだよ。いまからでも遅くない。自分が本当にやりたいこと、目標、夢に向かって歩みを進めてほしいんだ」
 アドロン監督とは、その後内輪の食事会にもお招きいただき、和食の席を囲んだが、彼はここでも私の気持ちを刺激することばをいくつも投げかけてくれた。
 映画監督とは、大勢の人と仕事をともにし、ひとつの大きな作品を仕上げていく。そういう人が語ることばは、ひとことひとことが胸にズシンとくる重みと強い説得力を持つ。
 映画を見て自分の生きかたを考える。マーラーの映画は、私に人生の教訓を与えてくれた。
 もうひとつ驚いたのは、監督の父親が伝説的なヘルデンテノール、ルドルフ・ラウベンタールだということ。
「父は私が子どものころからいつもいろんな作曲家のレコードを聴かせてくれた。でも、マーラーはそのなかに入っていなかったんだ。マーラーは父の趣味に合わなかったようだね。30代半ばになって私はマーラーの音楽と出合い、ことばのないオペラ、または音符に変換された映画のようだと感じた。いつかマーラーの映画を作りたいと思うほどマーラーの作品にほれ込み、ようやくいまになってそれが実現したというわけさ」
 ラウベンタールは1886年デュッセルドルフに生まれ、1971年に亡くなっている。最初はリリックテノールだったが、徐々に声が変わり、ワーグナーのさまざまな役を歌うようになった。監督いわく、1922年から32年にかけてメトロポリタン・オペラで活躍したそうだ。
「父がおもしろいことをいっていたのを思い出す。マーラーは指揮者の音楽であって、オペラ歌手の音楽ではないとね。だから私は長年マーラーの音楽を知らずに過ごし、ようやく大人になってから自分で探した作曲家なんだよ」
 監督はマーラーの音楽ももちろんだが、やはりその人物像に興味を惹かれるという。性格そのものが音楽に投影されているからと。
 音楽を担当したエサ=ペッカ・サロネンとは、彼のドキュメンタリーを撮影したことから友人となり、今回も演奏を依頼したそうだ。
「フロイトとマーラーの対話のシーンに交響曲第10番のフラグメント(断片)が流れるんだけど、それを演奏してくれとエサ=ペッカに頼んだら、目を丸くして、そんな演奏したことがないといったんだ。これはフル・オーケストラではなく、セクションごとの演奏やある楽器の単独の演奏などが49ピース使われる。私が詳細を説明していくうちに、彼は頭が混乱してきたといって、49のリストを出してくれって叫んだんだ。まあ、結果的にはうまくいき、オーケストラのメンバーも初めての経験をおもしろがってくれたけど、指揮者はさぞ大変だったと思うよ(笑)」
 親しい友人だからこそできたことなのだろう。映画では、サロネン指揮スウェーデン放送交響楽団の味わい深い演奏を聴くことができる。

 今日の写真はインタビュー時のアドロン監督。ユーモアとウイットに富み、好奇心旺盛で、雄弁で、奥さま思いで、みんなに好かれるキュートな性格の持ち主。サロネンもこの熱意に押されたのかも…。


 
 
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