Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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フリードリヒ・グルダ
 インタビュー・アーカイヴの第9回は個性派ピアニストのフリードリヒ・グルダ(1930〜2000)。1993年11月の来日が最後となってしまったのが、非常に残念だ。
 グルダは地中海に浮かぶイビサ島が好きで、リラックスするためによく訪れるといっていた。そしてそこで手作りの帽子をいくつか買ってくるという。この帽子をほめると、彼はいった。
「代わりの帽子をくれたら、ひとつあげてもいいよ。ただし、私の気に入る帽子に限るがね」
 それ以後、私は日本古来の帽子を探していた。次回の来日時に渡せるように。だが、それはかなわぬ夢となってしまった。

[FMレコパル 1994年2月号]


いい女との戦いはまだまだ続く!?
いたずらっ子健在


 1969年以来24年ぶりに来日したグルダ。こんなに長く日本にこなかったのは、2度目の奥さんが日本人で、彼女との別れが心に深い傷を残したから。それもようやく癒え、息子のリコも大人になったため、気持ちの整理がついたとか。
 今回はクラシックからジャズまで幅広く演奏。まるで新譜の『グルダ・ノン・ストップ』(ソニー)をナマで味わっているような、そんなリラックスしたコンサートだった。
 どの日も自らが本当に楽しんでいる気持ちのいいものだったが、いま一番ノッているパラダイス・バンドとの一夜は、まさにグルダの遊び心満開。1曲ごとにトークを入れ、聴衆とのコミュニケーションを図り、気持ちの赴くままステージを歩きまわる。そして独自の踊りも披露。まるでいたずらっ子がそのまま大きくなった感じ。
 コンサートに先立つインタビューでも、いたずらっ子は健在。気難しい面ばかり伝えられてきたが、実際はとても真摯で純粋で、終始絶やさないにこやかな笑顔も温かく、おどけた表情も魅力的だった。
「私がインタビュー嫌いだって? そんなことはないよ。まあ、若いころはずいぶんいろんな人と衝突もしたし、変なこと書かれたりして頭にきたこともあるけど、いまはもう戦いはすべて終わったんだ」
 グルダはおだやかな表情で「戦いは終わった」といった。いったい何に対する戦いなのだろうか。
 いまだあらゆるものと戦っている戦闘的な気がするし、この人からこんなことばを聞くとは思ってもみなかった。
「音楽に対する戦い、自己に対する戦い、世間の奴らに対する戦い、人生に対する戦い、そして女との戦いさ。
 でも、戦いが全面終わったわけでもないか。何度も辛い別れを経験しているのに、いい女が現れると、ついフラフラッとしてしまうから(笑)。
 まったく懲りないよ。音楽だって同じさ。追及していけばキリがない」
 グルダはその場の雰囲気でどんどん曲を変え、気分に応じてステージを展開させていく、クラシックのアーティストには稀な存在。
『グルダ・ノン・ストップ』でも聴衆の反応を見て雰囲気を盛り上げていくが、それがあまりにもテンションが高く自由で心が解放されているため、昔からあらゆるところで物議を醸し出してきた。クラシックとジャズの両方を演奏することに対する批判も含めて。
 もっとも彼の音楽の中核をなすのは、依然としてバッハとモーツァルトだ。
「バッハとモーツァルトはパラダイスからきた人。ベートーヴェンはパラダイスに到達しようと戦った人。だからまったく違うのさ。私はパラダイスということばが好きなんだよ」
 グルダはいまパラダイス・アイランドというプロジェクトに夢中。これはストーリーを持った音楽劇で、彼はこれを日本で上演し、演出を猿之助に要請したいと考えている。
「好きなことをやるのは金がかかるもの。エンノスケは偉大な才能の持ち主だから、当然莫大な金が必要。日本で上演するのはあくまでも夢だよ」
 戦いは終わったというグルダだが、まだ夢は盛りだくさん。いつまでもノン・ストップの精神で突っ走ってほしい。世間のことばになど耳を貸さずに。

 通常、インタビューは関係者が何人か立ち会うのが恒例となっている。ところが、グルダはそういう人たちをみんな外に追いやってしまった。
「最低限の人数でやろうや。女性だけがいいな。男は全員部屋から出ていってくれよ」
 そんなわけで、このインタビューは非常に深い印象となっていまも脳裏に刻まれている。憎めない人だったし、子どものようで、相手を見るやさしい目の表情も忘れがたい。私のインタビューのなかでも、とりわけ貴重なひとときだった。
 今日の写真はそのときの雑誌の一部。このときはベレー帽をかぶっているが、いくつか代わりの帽子も持っていた。


 
| インタビュー・アーカイヴ | 15:16 | - | -
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