Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ロベルト・バッジョ
「イタリア・サッカー界の至宝」「ファンタジスタ(夢のような芸術的名手)」と称されるロベルト・バッジョは、私にサッカーの扉を開いてくれた。サッカーの魅力を知るきっかけを作ってくれたのだ。
 彼の名を知ったのは1990年のワールドカップ、イタリア大会。若々しく野生動物を思わせる動きは、サッカーをまったく知らなかった私の目をテレビに釘付けにした。オフサイドやアディショナルタイムの意味も知らず、UEFAカップやスクデッド(セリエA優勝の代名詞)などということばも理解できなかったが、その後少しずつサッカーを勉強し、多くのことを学んでいった。現在では、スペイン・リーグをはじめ各地の試合を楽しむようになっている。
 ワールドカップの決勝前夜祭として、ルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスの「3大テノール」のコンサートが行われるようになったのは、1990年のこのイタリア大会から。「世紀の競演」といわれたこのコンサートの模様は世界中にテレビ放映され、ふだんクラシックをあまり聴かない人々をも感動の渦に巻き込んだ。
 3人は大のサッカー好き。パヴァロッティはユベントス、ドミンゴはレアル・マドリード、カレーラスはバルセロナのサポーターを自認している。そのカレーラスが白血病に倒れ、奇蹟の復活を遂げたことから、かつてライバルといわれた3人が同じステージに立つことが可能になった。
 以後、ワールドカップ開催ごとに各地でコンサートを行った。その初めてのイタリア大会のときに、私はバッジョを知り、そしてサッカーを知ったのである。
 4年後のアメリカ大会からは、毎回「3大テノール」の取材に出かけることになった。とりわけ印象が強かったのが、1998年のフランス大会。もちろん3人のコンサートの取材とインタビューが目的だったが、このときは幸運なことに私がサッカー好きだということを知り、「3大テノール」の事務局のかたがチケットを手配してくれた。なんと、準決勝のフランス、クロアチア戦である。
 チケットが確保できたとわかり、私は仲間とともにリハーサルを抜け出してサン・ドニのスタジアムまでタクシーを飛ばした。だが、タクシーが止まったのはAのゲイト前。私の席はXのゲイト。もう外まで大歓声がとどろいているなかを必死で走り、ようやく着いたらきびしいセキュリティが待っていた。
「お願い、もう始まっているんだから早く入れてよ」 
 叫びながら、ようやく席に着いたときの驚きといったら。とてつもなく広いスタジアムなのに、隅々まではっきり見える。ジダン、プティ、デシャン、デサイー、アンリ、トレゼゲ、テュラム、バルデスらの姿がはっきり確認できる。クロアチアにはシューケルがいた。
 スタジアム内はものすごい歓声と熱気で、隣の人の声も聞えないほど。ラッパは鳴らす、太鼓はたたく、まわりはみんな目がすでにイッている感じで殺気すら感じる。「これがワールドカップなんだ」と背筋がゾクゾクした。
 ハーフタイムのときに、隣のすさまじい叫び声をあげていた家族と話したら、彼らはアルゼンチン人。4年間家族が一丸となって働き、お金を貯め、ワールドカップに駆けつけるとか。家もなければ定職もなし。それでいいのだそうだ。
「次はお宅の国に行くからね!」
 そうか、次は日韓共催だったっけ。
 試合終了後、フランス人は舞い上がり、大声で徒党を組んで祝杯をあげ、クロアチアからバスで駆けつけたサポーターたちはバスの横にすわりこんでみんなが泣きじゃくっている。それを見た私はもらい泣きしそうになった。
 優勝後のパリはもっとすごかった。シャンゼリゼ通りを裸で行進し、「次期首相はジダンだ!」という合唱が聴こえた。
 そして新聞にはこんな見出しが大きく載っていた。「フランスは移民で勝利をつかんだ」。当時、フランスは移民問題で大きく揺れていた時期だった。
 バッジョが導いてくれたサッカーという楽しみ。彼のナマの試合は、東京でも観戦し、アーティスティックな足技にため息をつくほどだったが、できることなら最後のブレシアの引退試合を見たかった。 
 その後、ナイジェリアのオコチャのファンとなり、いまはコートジボワールのドログバとスペインのトーレスを応援している。彼らはトーレスが今年1月にチェルシーに移籍したため、たまたま同じピッチに立つことになった。このツートップが見られるなんて、昨年までは思いもしなかった。なんてラッキー、チェルシーだけ見ればいいんだもんね(笑)。
 私がバッジョというゲイトをくぐりサッカー場に入ったように、だれかの演奏に魅せられたら、ぜひコンサートホールに足を運んでほしい。サッカーが私の人生を豊かにしてくれたように、クラシック音楽もまた人生の楽しみを倍増させてくれると思う。

 今日の写真は1998年のW杯のチケット。私の宝物としてバッジョの伝記にはさんである。
 
| 麗しき旅の記憶 | 22:55 | - | -
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