Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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アンドレ・プレヴィン
 先日の「インタビュー・アーカイヴ」でシルヴィア・マクネアーの記事を紹介したので、その続きとして第14回はアンドレ・プレヴィンの登場。マエストロには何度かインタビューをしているが、いつもほんわりやわらかなムードが漂っていて、心がなごむ。
 インタビューの最後には、「何度か結婚しているけど、最近は動物や人間よりも盆栽に興味が移った」といってその場に居合わせた全員を爆笑させた。

[FM fan 1991年4月15日〜28日号 No.9]

世界中の指揮者に聞いたら、みんなモーツァルトが一番難しいと答えるんじゃないですか

 門外不出とされていたザルツブルクの冬の音楽祭「モーツァルト週間」が、初めて東京サントリーホールにやってきた。その初日を飾ったのはプレヴィンとウィーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団。プレヴィンはここでピアノを演奏。彼はこのほかウィーン・フィルを指揮するなど大活躍。そんな超多忙なプレヴィンにリハーサルの合間を縫ってマイクを向けてみた。

散歩の最中に曲が浮かぶなんて映画の世界のことだろうね

――この音楽祭はオール・モーツァルト・プロですが、指揮者とピアニストの両面から見た場合、モーツァルトというのはどんな作曲家でしょうか。
プレヴィン モーツァルトは指揮しようがピアノを弾こうが、とにかく演奏家にとって非常に難しい作曲家です。私は今回のように弦楽四重奏団と組んだり、いろいろな形でピアノを弾きますが、基本的には指揮が中心で、あくまでも自分は指揮者だと思っています。
 モーツァルトを指揮するときいつも考えるのは、モーツァルトというのはそれだけでプログラムが十分に成り立つということです。たとえばブラームスやチャイコフスキーはほかとの組み合わせで演奏されることが多いですよね。でも、モーツァルトはそれだけでプログラムを組んだほうがいい。モーツァルトだけですばらしいコンサートができるのです。
――モーツァルトの難しさというのは、楽譜がシンプルだからこそ、より表現が難しいということでしょうか。
プレヴィン そう、確かに楽譜は簡潔。音符も決して多くない。でも、そのひとつひとつの音のなかにさまざまな意味が込められています。ですから、テクニック的には簡単かもしれないけれど、ひとつのフレーズだけを見ても何百通りもの解釈があるから難しいんです。
 あなたが世界中の指揮者に聞いたら、みんなモーツァルトが一番難しいと答えるんじゃないですか(笑)。そして、もっとも好きな作曲家としてもモーツァルトの名を挙げる人が多いでしょうね。
――楽譜の表面だけを見ていてはダメで、もっとその奥にある作曲家の意図を見出すことが必要という意味ですね。
プレヴィン たとえば、私は京都の庭園が好きなんですが、あれはただ石が並んでいるだけ、砂が敷き詰められているだけと考えたら、それだけで終わりです。でも、ずっとあの石を見つめ、ひとつひとつの配置や意味を考えながら見ていると、その背後にあるものが見えてきます。
 それと同じで、モーツァルトもひとつひとつの音符を見ると、それは単なる音でしかありえない。しかし、ずっとそれを見つめていると、その背後にあるものが見えてくるのです。モーツァルトが本当にいいたかったことは何だったのか。そうなることによって解釈が広がっていきます。
 それから、モーツァルトは自分が悲しい気持ちのときに指揮すると、その気持ちが反映されるし、また気分が高揚しているときは、それがそのままはね返ってくるというおもしろさがあります。
――プレヴィンさんは作曲家でもあり、今度キャスリーン・バトルの曲を作られるということですが、もう構想はできあがっているんですか。
プレヴィン これはカーネギー・ホールから次のシーズンの演奏会用に依頼されたもので、キャスリーンとオーケストラのための曲です。歌詞はトニー・モリソンという女性の詩を使います。まだ全部できあがっていませんが、6曲で構成される予定です。
――いろいろなタイプがあると思いますが、作曲するときはしっかり五線譜に向かって始めるタイプですか。
プレヴィン そうですね、真っ白な用紙に向かってペンを握ってきちんと考えます。そうやって根を詰めないと、インスピレーションが湧いてこないのです。
 私は散歩が好きで、かなり長時間歩くんですが、それが一番息抜きになります。
――その散歩の最中に何か曲が浮かぶということはないのでしょうか。
プレヴィン ハッハッハ! 作曲家が森を散歩しているときにすばらしいシンフォニーが浮かぶなんて、映画の世界のことだろうね。そうできれば楽だけど、実際はもっと地道な仕事ですよ。

自然が好きで、都会で暮らすのは性に合わない

――でも、演奏旅行で世界中を飛び回っていると、どんなときに曲作りの時間をとるんですか。
プレヴィン ほかの職業の人は仕事を離れてリラックスするために旅に出るのでしょうが、私の場合は家にいるときが一番くつろげるますので、作曲もそんなときに集中して行います。ただし、本当に時間がたりないのは事実です。
 たぶんさまざまな都市を回っているためか、私はとにかく自然が好きで、都会で暮らすのは性に合わない人間なんです。以前22年間もロンドンに住んでいましたが、このときも郊外の家から市の中心まで毎日通っていました。
みんなに「よく面倒くさくないなあ」といわれ続けながら…。
 私は、朝静けさのなかで目を覚まして1日を始めたいと願っています。ですからいまも、ニューヨークと、コネチカット州にある緑に囲まれた静かなところと両方に住んでいるんですよ。
――今後のレコーディング計画は。
プレヴィン 向こう2年間で20枚録音する予定がありますから、全部の曲目をいまいえないくらい多い。ひとつ挙げれば、ウィーン・フィルとハイドンの交響曲を6曲入れる予定になっています。
――そうなると、散歩以外まったくオフの時間はとれませんね。
プレヴィン 私はいままでの結婚で8人子どもがいるんですよ。21歳を頭に7歳まで。ですから、空いている時間は子どもたちと一緒に過ごすだけで精いっぱい。ただし、みんな何かしら楽器はやっているんだけど、だれひとりとしてプロになれそうなのはいないなあ、残念ながら。

 短期間に鮮やかな演奏を披露し、あっというまに次なる地へと飛び立ってしまったプレヴィン。今秋にはロイヤル・フィルと来日し、今度は全国公演を行う予定。大の和食党で、ふだんでも週に2、3回は食卓にのぼるという。5カ国語はかるくこなすというプレヴィンは、そのグローバルな音楽性と同様に、異国の文化を上手に生活に取り入れる名人のようだ。ただいま日本語にも挑戦中とか。

 これはもうずいぶん前のインタビューだが、いまも忙しさは変わらないようだ。このときは「私はクラシックの指揮者だ」と明言していたが、その後ジャズにも回帰し、最近はジャズ・ピアニストとしての来日も多い。
 今日の写真はインタビュー時の雑誌の一部。柔和な笑顔が印象的だ。


| インタビュー・アーカイヴ | 22:21 | - | -
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