Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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萩原麻未
 昨年11月、スイスのジュネーヴ国際コンクールのピアノ部門で日本人として初優勝を果たした萩原麻未は、とてもユニークな性格の持ち主である。
 もちろん音楽に関して、コンクールに関して、自身のこれまでの歩みに関しては、ゆったりとした口調で真摯に答えてくれるが、そこかしこにえもいわれぬ不思議な雰囲気がただよっているのである。
 それが何かは、こんな会話で判明した。
「私、すごく運動が苦手で、特に球技がダメなんです。バドミントンをすると羽とラケットの位置関係がつかめない。バレーやドッジボールはボールがどこに飛んでいくのかわかっていない。バスケットでは走りながらドリブルをしてといわれても、ただドリブルしているだけ。同時に走っていくことはできない」
 もう、これを聞いて爆笑してしまった。
 彼女の演奏は、本能で弾いていると思える自然さと情感の豊かさ、情熱的で野性的ですらある、ある種の動物的なカンの鋭さを感じさせるものだが、それが大の運動オンチとは…。
 それを話すときの表情もまた真面目だから、こちらが大笑いするのもはばかれたが、私のバカ笑いにつられてか、一緒にケラケラ笑い出した。
 このときのインタビューは、本日の日経新聞の夕刊に掲載されている。もちろん、ここでは経歴やパリ留学で師事しているジャック・ルヴィエ先生のレッスンについて、また、コンクールのときのエピソードなど、真面目な内容で綴っている。
 萩原麻未は、正直な人でもある。その率直さが音楽に表れている。昔は古典派の作品が苦手で、あまり演奏しなかったが、やはりそれらの大切さを痛感し、最近ではハイドン、モーツァルトを演奏するようになったそうだ。
もっとも得意なのはドビュッシーのプレリュードと、ラヴェルのピアノ協奏曲。これから弾きたいのはシューベルトのピアノ・ソナタ。そしてラフマニノフのチェロ・ソナタ。
「私は自分の演奏を客観的に聴くということができていませんでした。バリでルヴィエ先生の初めてのレッスンを受けたとき、それを指摘されました。もっと第3者として聴くことができるような演奏をといわれたのですが、最初はまったくそれを理解することができませんでした」
 彼女は昔から自由に、自分の気持ちの赴くまま演奏してきた。ピアノを弾くことが大好きで、ひとりで弾いて楽しんでいた。
 だが、ルヴィエにいわれ、演奏を見直すようになる。
「先生は精神統一のために、自分を見つめ直すために、ヨガを勧めてくださったのですが、ここでも3日坊主で、すぐにやめてしまいました。私、結構飽きっぽいんです。特に運動は続きませんね。それでは、と考えてジョギングしてみたんですが、またまた1日でダメ。だって、5分走ったら、もう疲れちゃって。泳ぎですか。うーん、幼稚園のころは少しは泳げたんですけど、小学校のときは5メートルで、もうおぼれそうになって(笑)」
 なんというおかしさ。これは文にするとあまりおかしくないかもしれないが、彼女がゆったりとしたテンポで大真面目な顔で話すと、私は自然に笑いがこみあげてくる。
 こんな人間的な味わいを持った若手ピアニスト、久しぶりに会った感じだ。そのピアノが聴き手の心をつかんで離さないのは、本能で生き、本音で語り、心の感じるままに演奏するからではないだろうか。
 ちなみに、コンクールの優勝が決まった直後のインタビューが日本のテレビで紹介され、そのときはなんだか夢見心地のような、あいまいな答えをしている姿が映し出され、周囲から非難ごうごうだったそうだが、これは本人いわく「それまで眠れなかったので、すごく眠くて、何を聞かれているのかわからなかった」のだそうだ。なるほどね。私もあれを見て、「はて、この人は時差ボケなのかな」と思ったほどだったが、真実は寝不足だったのね。
 今後は、まず室内楽とコンチェルトを中心に活動をスタートし、ゆっくりマイペースで進んでいくという。ぜひ、自由で情熱的な演奏、ナマで聴いてみて。
 今日の写真はインタビュー時の1枚。キュートに撮れているでしょ。

| アーティスト・クローズアップ | 22:03 | - | -
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