Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ネヴィル・マリナー
 1985年に「ナイト」の称号を受けたサー・ネヴィル・マリナーは、幅広いレパートリーを誇り、膨大な録音を行っているが、なかでもモーツァルトを得意としている。映画「アマデウス」では、マリナー指揮によるアカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)の演奏が使われた。
 インタビュー・アーカイヴ第22回はそのマリナーの登場。

[FM fan 1994年10月24日〜11月6日号 23]

私はアンサンブルの美しさを一番重視しています
 


35年間アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズを率いてきたサー・ネヴィル・マリナーが、今年の4月15日に70歳の誕生日を迎えた。地元ロンドンでは「ハッピー・バースデイ・ネヴィル」と題された祝賀コンサートが開かれ、その若々しい指揮ぶりが話題となったが、来日公演でもオーケストラと一体となった、両者の信頼感を強く感じさせる演奏を聴かせてくれた。

これからは19世紀後半から20世紀初頭のオペラを振りたい

――今回のプログラムのなかで特にブラームスの交響曲第4番には室内楽的な響きを感じましたが、これはご自身がヴァイオリニストだったことと関係がありますか。
マリナー 多分あるでしょうね。私はアンサンブルの美しさを一番重視していますから。このオーケストラを作ったときにはメンバーは15人だったんですが、それは全員イギリスの室内楽奏者たちでした。次第に人数が増えて規模が大きくなり、演奏する曲もバロックから近・現代までと広がってきましたが、当初のオリジナルな響きというものは変わらず持ち続けています。
 いまオーケストラは平均年齢が30歳です。契約方式ではないため、メンバーがほかの演奏会で協奏曲を弾いたり、ソロ活動することもまったく自由です。ただし、われわれのオーケストラの目指す方向、みんなの空気に合わない人は1日でクビになってしまうこともあります。たいていは3カ月一緒に演奏すればオーケストラ特有の空気というものに慣れ、すっかりオケの性格を把握した演奏ができるものですが、なかには合わない人も出てくる。
 逆に20年も演奏し続けている人もいるわけです。われわれは自由と金銭的な面は保証していますが、身分を保証しているわけではない。音楽が第一ですから。
――最近は声楽を用いた作品の録音が多く見られますが、今後もこのような方向を?
マリナー 私はかなり多くの録音を行ってきましたが、いつもそれがマンネリに陥らないように心を砕いています。いまは新しい分野を模索している時期で、結構大がかりな作品に興味が移っています。これからしばらくは、19世紀後半から20世紀初頭のオペラを振りたいと考えているんですよ。
――今秋にはウィーンでベートーヴェン・チクルスが予定されていますよね。
マリナー ええ、これも新しい面を入れていきたいと考えています。ベートーヴェン・チクルスは去年と今年の2回、スペインとメキシコで行ったんですが、それは交響曲が中心でした。ウィーンでは久しぶりに「ミサ・ソレムニス」を演奏したいと思っています。
――ピエール・モントゥーから指揮することを勧められたということですが、その時点ではもうヴァイオリンには未練はなかったんですか。
マリナー まったくありませんでした。最後に演奏したのはハイフェッツとピアティゴルスキーらとカルテットを組んだときで、こんなすばらしいメンバーとはもう演奏できないだろうと思い、すっぱり楽器をやめました。
――でも、ヴァイオリンを通じて多くの偉大な演奏家に出会えたわけですよね。
マリナー ええ、昔はオイストラフが自宅まできて、よく演奏してくれたものです。彼は偉大な音楽家でしたが、素顔は飾らない気のいいおじさんという感じでした。確かにヴァイオリンを弾いていたときはクレンペラー、クリップス、カラヤンらの偉大な指揮者のもとでも演奏しました。それが財産になっていることは事実です。
 実はロンドン交響楽団の首席奏者を務めていたころ、ずっとこのままオーケストラで弾いているだけでいいのだろうか、という疑問を抱いていた仲間が6人集まって室内楽を始めたんです。それがやがて15人になって、そこで弓で指揮をしながら弾いていたら、ある日モントゥーがそれを見て本格的に指揮をやってみないかと誘ってくれたんです。でも、私は指揮の勉強をまったくしたことがなかった。それでモントゥーが自分が開いているアメリカのセミナーに来いといってくれたわけです。ここでは正式に指揮を学びました。最初に振ったのはモーツァルトの交響曲第40番でしたよ。
 私のように指揮科を出ているわけではない人間は基礎から学ばなければならないから大変でしたが、ひとつ有利なことはオーケストラのメンバーをいかにしたら自分の音楽に向かせるかということを身をもって知っていたため、これが功を奏しました。
 オーケストラというのは新しい指揮者が来ると、この人はわれわれを利用しようとしているんじゃないか、一体どんな音楽観をもっているのか、威圧的なのかそれとも真に音楽的なのか、などとあれこれ考えます。そういうメンバーを早いうちに自分の音楽に引きつける、これが指揮の一番のコツですからね。

ブーイングの嵐にさらされたこともあるんですよ

――長い指揮活動の間には、いまでも印象に残っている失敗などもあると思いますが。
マリナー ハッハッハ、山ほどありますよ。そうですねえ、何から話しましょうか。あれはフランス国立管弦楽団を振ったときだったかな。モーツァルトが一番高い音を書いた声楽作品を演奏したとき、そんな高い音が出せる歌手いないというので、わざわざカナダの歌手を呼んだんです。そしたら彼女、リハーサルではのどを痛めるからといってその音を出さなかった。当日の最後のリハでも、今夜のためにとっておくといって歌わない。そして本番。ついに彼女は一番高い音を歌わなかったんです。
 私はブーイングの嵐にさらされましたよ。でも、こういうことはすぐに忘れるようにしているんです。大好きなテニスをしてね。イギリスの田舎の家にはテニスコートがあるんですが、そこで毎日ラケットを振っているんですよ。
 最近ではオペラを予定しているときにはソリストを2、3日自宅に呼んでともに食事をし、話をし、お互いのコミュニケーションを図るようにしています。それからリハーサルに入ると、とてもうまくいくからです。もちろんテニスも一緒にします。でもこれは、最後は私が勝たないといけない(爆笑)

今日の写真はそのときの雑誌の一部。マリナーは今秋の「NHK音楽祭」に出演し、カツァリス&N響と共演し、得意のモーツァルトとブラームスを演奏する。久しぶりに、エレガントかつ華麗な音楽を生み出す矍鑠たる指揮姿に会える。


| インタビュー・アーカイヴ | 15:31 | - | -
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