Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

ブログ

<< チャイコフスキー国際コンクール 優勝者ガラ・コンサート | main | アロンドラ・デ・ラ・パーラ >>
ダニール・トリフォノフ
 8日のチャイコフスキー国際コンクールの優勝者ガラ・コンサート、9日のリサイタルと、2日続けてダニール・トリフォノフの演奏を聴いた。
 彼のピアノを初めて聴いたのは、昨年10月のショパン国際ピアノ・コンクール(第3位入賞とマズルカ賞受賞)の会場でのこと。このときは繊細で、ひとつひとつの響きを大切にする特有の美しいピアニズムに魅了されたが、他の入賞者たちがあまりにも強烈な個性の持ち主だったため、ナイーブな特質が前面に出にくい感じだった。
 ところが、たった11カ月経過しただけで、トリフォノフのピアノは長足の進歩を遂げた。彼はショパン・コンクール後、今年5月にはイスラエルのルービンシュタイン国際コンクールで優勝し、続いて7月にはチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で優勝を遂げ、ここでは史上ふたりめのグランプリに輝いた。
 なんというステップアップの速さか。今回耳にしたトリフォノフの演奏は、確固たる自信に満ちあふれ、ピアノを思う存分自由に鳴らし、自分の演奏は「これだ」という明確な方向性を打ち出していた。
 これが若さというものだろうか。いや、それだけで片づけてはならないだろう。実は、記者会見の前にインタビューをしたが、そこでは大変な努力をして現在の演奏ができあがったことが判明した。このインタビューは9月29日の日経新聞の夕刊と、ヤマハのWEB「音楽ライター&ジャーナリストの眼」9月29日アップ分に書くことになっている。
 トリフォノフは1991年3月5日、ロシアのニジニ・ノヴゴロド生まれ。5歳よりピアノを始め、17歳のころから内外の複数のコンクールで優勝、入賞を成し遂げ、2009年にグネーシン音楽院(タチヤーナ・ゼリクマンに師事)を卒業。現在はクリーヴランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに師事している。
 ショパン・コンクールに参加する前にすでにレコーディングを行ったり、ニューヨークのカーネギー・ホールにデビューしたりしている。このCDは「トリフォノフ・プレイズ・ショパン」(ユニバーサル)で、日本では来日に合わせ、つい先ごろリリースされたばかりだ。
 インタビューでは、私が「ショパン・コンクール後に2つのコンクールで優勝するなんて、本当に驚いた。どうやって準備をしたの」と聞いたら、その間の状況を詳しく教えてくれた。
「ショパン・コンクールまでの準備も結構大変だったけど、その後すぐにルービンシュタイン・コンクールの準備に取りかかったんだ。ここで優勝できてとってもうれしかったけど、大変だったのはそのあと。だって、優勝者に与えられるコンサートが13日間で12回もあったんだよ。もう時間がたりなくてどうしようかと思っちゃった」
 この「時間がたりなくて」には理由がある。彼はチャイコフスキー・コンクールの課題曲であるチャイコフスキーのピアノ協奏曲をまだ仕上げてなかったのだそうだ。
「白状しちゃうとね、チャイコフスキー・コンクールでこのコンチェルトを演奏したのは2度目の本番にあたるんだ。最初は、ぼくがまだオーケストラとこの曲を合わせた経験がないと知って、友人たちの学生オーケストラが一緒に演奏してくれた。だから、チャイコフスキー・コンクールのときがたった2度目。本当に緊張したよ」
 こういいながらケラケラ笑っているところは、なんとも大物。そしてこんな短期間で大きなコンクールをいくつも受けた理由は。
「コンクールは、若いうちに受けたほうがいいと思ったから。だから必死で練習した。チャイコフスキー・コンクールを終えて、ああ、もうコンクールを受けなくていいんだと思ったら、肩の力がドーッと抜けたよ」
 そりゃ、そうでしょう。全部門の最優秀賞にあたるグランプリを受賞したのだから。
「ぼくは、子どものころからいつも時間がたりないという悩みを抱えている子だった。それがいままでずっと続いていて、いつも時間がもっとほしいと切実に思っている。だからこの11カ月の猛練習も子どものころからの延長で、ぼくにとってはふつうのこと。いまは世界中からコンサートのオファーが入ってきて、本当に夢がかなった感じ。これで気をゆるめず、また練習練習の日々を続けていくよ(笑)」
 ハハーッ、まいりました。20歳の俊英がいうことは違いますね。彼の目下の課題は「レパートリーを増やすこと」。あまりにも多くのコンサートが入ってくるため、同じ作品を続けて弾くようになってしまう。それは避けなければならない。そのためには、練習が欠かせない。というわけで、当然のことながら何度も「時間がたりない」ということばが口に出る。
「ぼくは昔からすべてのことを自分で決めてきた。これからもそれを貫き通すつもり。でも、すばらしい恩師に恵まれてきたから、その教えや助言を守りながら、自分にできる限りのことをして、聴いてくれる人たちに楽しんでもらえる演奏をしたい」
 トリフォノフは、今回のコンチェルトではオーケストラをリードし、いまは完全に自分の音楽となったチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を高らかに歌い上げた。そしてリサイタルではショパン、リストなどの作品を磨き抜かれたテクニックとみずみずしい表現力で弾ききった。さらにアンコールを何曲もプレゼント。疲れを知らない躍動感あふれる演奏に、会場からため息がもれた。
 今日の写真はインタビュー後のおふざけポーズ。ホテルのバンケットルームの照明ゆえか、彼の瞬間のポーズをとらえたためか、多少ピンボケ。でも、本人は「こんなはじけたポーズで写真撮られたの、初めてだよー」といっていたから、ピンボケは御愛嬌ということで…。 


 
| アーティスト・クローズアップ | 23:59 | - | -
CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< July 2017 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE