Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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マレイ・ペライア
 昨夜はすばらしいペライアのリサイタルを聴き、一昼夜経たいまでもその演奏は心の奥に深い記憶と感動を伴って刻み込まれている。
 今回のプログラムは彼が指を故障していた時期に「バッハの音楽によって救われた」と語る、J.S.バッハの「フランス組曲」第5番から始まった。ペライアの演奏はバッハ時代の楽器の響きを特に意識することなく、現代のピアノの特質を生かす奏法。しかし、ペダルの使用は極力控え、音のダイナミズムも抑制し、かろやかさと繊細さを際立たせ、ひとつひとつの舞曲のリズムを鮮やかに弾き分けていく。
 次いでベートーヴェンのピアノ・ソナタ第27番の登場。先日聴いたチッコリーニのベートーヴェンのときもそうだったが、ペライアのベートーヴェンもとりわけ第2楽章のロマンあふれる旋律の表現が美しく、つい涙腺がゆるむ。
 ベートーヴェンの作品の緩徐楽章というのは、なぜこんなにも人の心を打つのだろうか。名手による演奏は、涙なくしては聴けない。ペライアは映画「不滅の恋」のサウンドトラックを担当し、なかでもベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第2楽章がえもいわれぬほど美しい。これはベートーヴェンの弟子が「不滅の恋人」の謎を解明するために馬車に揺られていく冒頭のシーンのバックに流されるのだが、もう最初から目はウルウル状態だ。
 リサイタルの前半の最後は、録音でも大評判のブラームスの「4つのピアノ小品Op.119」。これと後半の最初に置かれたシューマンの「子供の情景」がいまのペライアの心身の充実を物語っていた。何かをプラスしたり、何かをマイナスする必要がまったくないほどの完璧なる演奏を披露したからだ。あるべき音がそこにある、という美しいフォルムで作品が紡がれていった。
 そして最後は彼が大好きなショパンの作品を3曲。「24の前奏曲」第8番、マズルカ第21番、スケルツォ第3番を続けて演奏。アンコールでもショパンを何曲か演奏し、深い感動をもたらして幕を閉じた。
 先週ペライアにインタビューをしたとき、彼はこのブラームスとシューマンについて熱く語った。ウィーンのムジークフェラインの図書館でブラームスの貴重な資料を見て新たな発見があったこと、シューマンのテンポ設定についてなど、ふだんは決して雄弁ではない彼がこうした話題ではひざを乗り出して話す姿が印象的だった。
 このインタビューは今月24日の「日経新聞」夕刊に掲載される予定である。さらにヤマハWEB「音楽ジャーナリスト&ライターの眼」にも書こうと思っている。
 ペライアは、演奏のみならずステージマナーにもその実直な人柄が現れている。現役のピアニストのなかで、私がもっとも好きなピアニストである。
 今日の写真はインタビュー時のもの。来日した直後だったが、時差も気にせず誠実に対応してくれた。またまた惚れ直してしまったみたい(笑)。


 
 
 
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