Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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サイモン・ラトル
 来週、サイモン・ラトルとベルリン・フィルのコンビが3年ぶり、4度目の来日公演を行う。今回は、樫本大進がコンサートマスターに就任してから初めての来日公演となる。私は初日22日のマーラーの交響曲第9番を聴きに行く予定になっているが、本当に楽しみだ。
 そこでインタビュー・アーカイヴ第27回はマエストロ・ラトルの登場。2004年の晩夏にベルリン・フィルの指揮者室でインタビューを行ったものである。

[Relax 2005年1月号]

「この映画は子どもたち、そして私とベルリン・フィルの人生を変えた。みんな自分の未知なる可能性と創造力に気づいたんだ」

 いま、ベルリン発のひとつのドキュメンタリーが話題だ。それは、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル演奏のバレエ曲「春の祭典」を、ベルリンの子どもたち250人が踊るというトライアルの熱い記録。古典と現代、そして世代を超えたエネルギーの渦をラトル自らが語る!

「どんな曲を使うか、これがもっとも重要な点だった。だって、考えてみてよ。チャイコフスキーの『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』だったら、どんなダンスをしてもプロのダンサーには勝てない。もっと自由でエキサイティングで、子どもたちが身近に感じられる音楽にしたかったんだ。ストラヴィンスキーの『春の祭典』は若者にとって聴きやすいし、リズミカルで踊りやすい。からだが自然に動き出すと思うし」 
 ラトルはドキュメンタリー映画「ベルリン・フィルと子どもたち」の話になると、途端に早口になる。エネルギッシュな語りはあたかも彼の音楽のようで、ことばが次々とあふれ、手の動きも交えてからだ全体で意思表示をする。ふだんはじっくりとひとことずつかみしめるように話し、相手の反応を見ながら次の話題へと進むが、映画に関しては、とどまるところを知らない。
「現在は世界中の人々が問題を抱え、壁にぶつかり、悩みやストレスにさらされる毎日を送っている。この映画はそうした人たちにぜひ見てほしいと思う。きっと現状から立ち上がる勇気が湧くと思うから」
 ラトルは2002年春、ベルリン・フィルの芸術監督に就任したとき、ひとつのアイディアを契約に盛り込んだ。「教育プロジェクト」と題した、子どもや青少年のための音楽教育プロジェクトである。これは「子どもたちにもっと音楽のすばらしさを感じてもらいたい」というラトルの願いから発したもの。「ベルリン・フィルと子どもたち」はその願いが結実したドキュメンタリー。2004年2月、ベルリン国際映画祭でのワールドプレミアでは観客を熱狂の渦に巻き込み、その後各国映画祭でも特別招待作品として上映されている。
「不思議だよねえ、子どもたちを主役に撮影したものなのに、大人がみんな感動してくれる。音楽に国境はないというけど、年齢も何も関係ないってことがこれで証明されたよね。実際、音楽を説明するのにことばはいらない。いい演奏をすればみんながわかってくれる。映画は子どもたちに“きみたちは自分を変えることができる”ということを音楽を通して訴えているんだけど、これは大人にも通じることだと思う」
 サイモン・ラトルはビートルズゆかりの地、リバプールに生まれた。幼少のころよりパーカッションに親しみ、やがて指揮者の道を歩み始めたラトルは、いまや世界の最高峰に位置するオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者および芸術監督に上り詰めた。
 だが、素顔のラトルはちっとも偉そうではない。Tシャツやジーンズを愛し、楽員たちとトレーを持ってオーケストラの本拠地であるフィルハーモニー大ホールのカフェでランチの列に並び、「サイモン」と気軽に呼ばれることを好む。1994年、39歳の若さで音楽界への多大なる貢献を称えられて爵位を授与され、サー・サイモン・ラトルと呼ばれるようになったというのに。
 そんなラトルは、幼いころからジャズを聴き、「音楽の大切な要素はリズムだ」と感じてきた。そして、20世紀に生まれた作品や現代の作曲家が生み出す作品を好む。このドキュメンタリーの原題も「RHYTHM IS IT!」。20世紀初頭、ロシアの作曲家、I.ストラヴィンスキーが書いた最高傑作といわれる「春の祭典」の幻想的な響き、神秘的な旋律を強烈なリズムを前面に出しながら指揮している。
「春の祭典」は異教の祭典で春の神の心を鎮めるためにいけにえの処女を捧げ、彼女は死ぬまで踊り狂うというストーリー。音楽ははげしく哀しく美しく、さまざまな表情を持ちながらすさまじいクライマックスへと突入する。初演当時はあまりに前衛的で、大スキャンダルとなった作品である。
 映画では、冒頭からラストシーンまで多くの子どもたちや振付師、ラトルらが自分の人生を淡々と語る。そのことばは非常にリアルで、見る者の心の奥の扉を強烈にノックする力を備えている。人は悩み、困難に直面し、それを必死で乗り越えていくものなのだということが伝わってくる。
「音楽は勉強するものではなく、からだ全体で感じるもの、そして表現するものだと思う。『春の祭典』はリズム、色彩がすばらしく、万華鏡のような作品。音楽が私たちを成功へと導いてくれたんだ」
 ラトルは「コミュニケーション」ということばが大好きだ。指揮者である自分とオーケストラとのコミュニケーション、子どもたちとのコミュニケーション、そして作品とのコミュニケーション。
「でも、忘れてはならないのは聴衆とのコミュニケーション。これなくしては演奏は成り立たない。私は常に聴衆が何を求め、どんな音楽を聴きたいかを把握していたい。自分だけ満足していたのでは時代に置いていかれてしまう。いま現在、みんなが何を欲しているか、それを見極めないとね」
 時代の寵児と呼ばれるラトル。彼の目は世界を見、時代を見、未来を見つめている。

 今日の写真はその雑誌の一部。カメラマンが百面相のようなラトルの表情を撮影し、編集者がそれをページ全体にちりばめた。

| インタビュー・アーカイヴ | 22:11 | - | -
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