Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ミシェル・プラッソン
 1998年6月、サッカー・ワールドカップのフランス大会が行われた年に、トゥールーズで指揮者のミシェル・プラッソンにインタビューすることになった。翌年2月に行われる「東芝グランドコンサート」でトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団とともに来日することになっていたからだ。
 このときは日本代表がトゥールーズで試合をすることに決まっていたため、私は町を散策しながらサッカーショップをのぞいたが、どのショップにも日本のサポーター向けの商品はいっさいない。
 そこでショップのオーナーらしき人に「もうすぐ日本から多くのサポーターがトゥールーズにくると思うから、日本人向けの商品があったほうがいいと思うわよ」というと、その人はびっくりした顔をしていった。
「えっ、日本は野球が好きな国じゃないのか。サッカーなんて見にくるとは思わなかった。そうか、もう時間がないからこれからすぐに日本代表のことを調べて、応援する人たちが好きな商品をたくさん仕入れることにするよ。商売のプラスになることを教えてくれて、ありがとよ(笑)」
 これは仕事以外のほんのひとときのリラックスタイム。さて、インタビュー・アーカイヴの第34回は、そのマエストロ・プラッソンの登場。

[アサヒグラフ 1998年冬]

「輝かしい色彩感に満ちた響きを引き出したい」

 オーケストラは、その土地の風土、気候、伝統や慣習、人々の気質を映し出す存在だといわれる。ベルリン・フィルにはベルリン・フィル特有の国際都市としてのインターナショナルな響きがあり、ウィーン・フィルにはウィンナワルツに代表される伝統に根差した舞踏のリズムが息づいている。そしてアメリカのオーケストラもまた、それぞれの都市の特徴を音色に反映させている。
 サッカー・ワールドカップの日本戦が行われたことで一躍知られることになった南フランスのトゥールーズにも、この町の特徴をリアルに映し出すオーケストラが存在する。1973年に創立されたトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団である。ここは当初、市立として発足したが、やがて県立に昇格し、1980年には国立の名を冠するまでになった。その立役者がミシェル・プラッソンだ。
「このオーケストラの指揮を始めて今年で30年になります。トゥールーズは昔からとても歌が盛んなところで、人々はオペラや歌曲、民謡などを愛好していました。オーケストラ音楽にはあまり興味がなかったんです。私はそんな人々の耳をオーケストラに向けたかった。フランス作品を演奏するフランスらしいオーケストラを育てたかったんです」
 トゥールーズの町は、古くから「ばら色の都」と呼ばれている。それは建物がレンガで造られているからで、教会も市庁舎も学校も住宅も、すべてこの美しいばら色の屋根や外壁に彩られている。スペインに近いからか日差しがとても強く、木々の緑も濃い。
「私の目指す音楽もまさにこの町の色。ぬくもりに満ちた、ばら色の音色なんです。私はこのオーケストラからそうした輝かしい色彩感に満ちた響きを引き出したいと思い、じっくりと育ててきました。いまでは黄金に輝くような音色、真っ赤な響き、または深い海を思わせるような青の音がほしいと思うと、即座にその響きをオーケストラから導き出すことができるようになりました」
 プラッソンはモンマルトル生まれの生粋のパリジャン。両親が音楽家という恵まれた環境に育ち、幼いころからピアノを始めた。パリ音楽院に入学したころから指揮者を目指すようになり、1962年のブザンソン・コンクールで優勝。その後トゥールーズに移り、このオーケストラと二人三脚で歩むようになる。
「子どものころからいろんな楽器を演奏しました。とにかく音楽家になりたかったんです。でも、戦争があったり、母を失ったり、さまざまなことを経験し、早い時期に自活しなければならなくなった。それでピアノで食べていくようになったんです。最初はクラシックばかりではなく、ピアフの伴奏などもしましたよ。コンクール受賞後は各地のオーケストラから申し込みがあったんですが、私はトゥールーズを選んだ。もう生活のすべてをトゥールーズに注ぎ込みました。いまではパリを捨て、トゥールーズに移住したような気分です」
 トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の演奏は、音楽がとにかく若々しく明快。ここは若いメンバーが目立ち、新しいことに挑戦したいという前向きな姿勢が見られる。
 もちろん、ふだんの定期公演では他国の作品や現代作品など、レパートリーを限定せずに広く取り上げているが、海外公演ではフランスの有名な作品に焦点を絞っているという。
 来年の初来日公演でもビゼーやラヴェル、ドビュッシー、ベルリオーズなどのフランス作品を披露する予定。
「この土地の人は標準語のフランス語とは少々ニュアンスの異なった、鼻にかかるような方言を話します。それはまるで歌うようなアクセントです。私たちの音楽も目指すのは歌うような響き。洗練された洒脱で粋なフランス音楽ではない、もっと人間的な地方色豊かな演奏。それがこのオーケストラの特徴です。ほとんどの楽員がこの土地の出身者ですから、いつも会話は方言のみ。南フランスの民謡のような素朴でシンプルで温かい音楽、それが理想ですね」

 プラッソンはこのオーケストラの指揮を2003年まで続け(現名誉指揮者)、現在は「すばらしい逸材」と称される北オセチア出身のトゥガン・ソヒエフが音楽監督を務めている。プラッソンが作り上げた色彩感豊かな温かい音楽はそのまま引き継がれ、そこにソヒエフの現代的で個性的な色合いが加わり、トゥールーズならではの特質を備えたオーケストラとして歩みを続けている。
 今日の写真はそのときの雑誌の一部。マエストロ自身もとても温かくおだやかな性格で、話を聞いている間中、ふんわりと大きく包みこまれる感じがした。



| インタビュー・アーカイヴ | 14:23 | - | -
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