Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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リチャード・ストルツマン
 アメリカ出身のクラリネット奏者リチャード・ストルツマンは、ブレスのすごさで知られるが、実際に会ってみてその胸板の厚さにびっくりしてしまった。
「からだを鍛えるためのスポーツ? 特に何もしていないね。ただ毎日呼吸法の訓練をしているだけだよ」
 こういってストルツマンは思いっきり息を吸い、それを少しずつ楽器のなかに出していく方法をじかに見せてくれた。顔は真っ赤、あごから首にかけては目いっぱい息をためているのがわかるような力の入れかただ。1回が30秒ほどで、これを毎日5分ほど行うのだそうだ。
 この呼吸法でジャズもクラシックもジャンルを飛び越えてどんどん演奏し、人々にハッと息をのませている。インタビューのときに楽器を演奏する人はまれだが、ストルツマンは積極的に吹きながら説明をしてくれる。
 インタビュー・アーカイヴの第37回はそのストルツマンの登場だ。

[FM fan 1998年1月12日〜1月25日 No.3]

私はクラリネットの音で世代のギャップを埋めたい。音楽にはその力があると確信しているんだ

あまりオペラは聴かないんだけど、妻のアドヴァイスを受けるうちに曲の美しさにすっかりハマッて… 

 以前、「ヴィジョンズ」というアルバムのなかでプッチーニの「私のお父さん」のクラリネット版を披露したストルツマンが、オペラ・アリアだけを集めて1枚のディスクを完成させた。これは「カルメン」の「セギディーリャ」や「ポーギーとベス」の「サマータイム」などの耳慣れたアリアを、ストルツマンのフィルターを通してクラリネットで歌い上げたもの。ジャンルを超えて幅広く演奏している彼のオープンな気持ちが音楽に全面的に現れ、聴き込むほどに心が解放されていくような絶妙の味わいを醸し出している。
「正直いうと、私はあまりオペラは聴かないんだよね。あの高音を張り上げる声というのがどうも苦手でさ。それでこの企画が持ち上がったとき、まず頭に描いたのは聴きやすい曲を選ぶこと。私自身その歌が好きで、クラリネットで吹いても十分に歌のよさが表現できるようなものを選曲すること。それでレコード会社のほうから資料を提供してもらい、さまざまな曲を聴いたり楽譜を検討したりして、ようやく18曲に絞ったんだ」
 もちろん膨大な曲を調べていくうちに、いい曲ではあるがクラリネットに向かないというものも出てきた。アリアは人間の声のために作られた曲であり、楽器で演奏すること自体が所詮無理というものもあった。
「妻のルーシーは私よりオペラに詳しいんだよ。彼女の父親はヴァージニアの小さな町でオペラのディレクターをしているんだけど、家ではいつも歌手にレッスンをしていたんだって。それを聴いて育ったからほとんどのオペラの内容や配役が頭に入っている。それで私は彼女のアドヴァイスを受けながら役柄を把握し、歌に結びつけていったというわけ。そのうち徐々に曲の美しさにハマッてきて、削る曲が少なくなってしまって困った(笑)」
 次なる挑戦はブラジルの音楽を主体とした南米の曲を集めた録音。ストルツマンは踊りの音楽が何よりも好きなのだという。
「映画も好きでね、日本の《シャル・ウィ・ダンス》は2度も見にいったくらい。音楽に合わせてからだが自然に動くというものが好きなんだ。からだが自由になると気持ちも解放されて、自分が変わっていくような気がするから。そういう音楽を演奏していきたい」

私と子どもたちの中間の世代に、クラリネットのよさを知ってもらう、これが私の生涯の課題さ!

 ストルツマンは常にクラリネットで何ができるかを模索している。いろんな音楽を吹くのも、クラリネットに縁のなかった人がどこかの入口からスッと入ってきてクラリネットに自然に親しんでくれればと願うからだ。
「いまの子どもたちは学校でこの楽器に親しむことができるけど、その少し上の世代はまったく聴く機会がない。私たちはベニー・グッドマンやビッグバンドで音色はいつも聴いていたんだけどね。その中間の世代にクラリネットのよさを知ってもらうためにはどうしたらいいか、これが私の生涯の課題さ。日本にくるとすごく若い世代の人たちが演奏を聴きにきてくれ、彼らと音楽を通して密接なコミュニケーションがとれる。欧米ではこうはいかない。私はクラリネットの音というものと、その楽器が生み出す音楽で世代のギャップを埋めたいと考えている。音楽にはそれを可能にする力があると確信しているから」
 ストルツマンの趣味はケーキ作り。アメリカの子ども用のテレビ番組でも自慢のケーキを紹介した。その後、子どもたちは親しみをもって音楽を聴いてくれたという。これも音楽導入へのひとつの方法かもしれない。

 今日の写真はその雑誌の一部。彼は天才的な音色の持ち主なのに、ステージでは90度腰を折って深々とおじぎをし、出入りはせわしなく小走り。そこがまた魅力的だ。

| インタビュー・アーカイヴ | 21:03 | - | -
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