Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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スティーヴン・イッサーリス
 ロンドン生まれのチェリスト、スティーヴン・イッサーリスには何度かインタビューをしている。もっとも印象的だったのは、彼がソウルを訪れたときにレコード会社の担当者とともに演奏を聴きにいき、そのときにインタビューをしたこと。
 実は、このとき私とレコード会社の女性とは飛行機に乗ってからホテルに宿泊した夜中までずっと話し続け、ほとんど一睡もせずにインタビューに出かけた。
 すると、イッサーリスもオーストラリアから飛んできたそうで、疲れと時差でボロボロだという。
「いやあ、お互いに疲労の極地で、かえってテンション上がるよねえ。ぼくもまったく寝てないんだよ」
 こう笑いながら、イッサーリスはそれでもプロ根性を発揮し、しっかりインタビューに答えてくれた。
 彼は結構気難しくて、いい出したら聞かない、自分の意見は決して曲げないというところがあるが、いったん興が乗るとしゃべりっぱなしになる。
 インタビュー・アーカイヴ第40回は、その後また日本で話を聞いたときの記事。このときは疲れた様子はまったくなかった。

[弦楽ファン 2006年 Vol.3]

ストラディヴァリウスとのミステリアスな恋

―まず、現在使用されているストラディヴァリウス“フォイアマン”との出合いから聞かせてください。
「これは日本音楽財団より貸与されている1730年製の楽器です。7年前にパリで出合いました。初めて音を出した瞬間、まさに“恋に落ちた”という感じでしたね。すばらしい音色で、チェリストを貴族のような気持ちにさせてくれる、宝物に出合った気分でした。自分の出したい音が次々に出てくる。魔法にかかったようで、音楽家冥利に尽きる、とでもいったらいいでしょうか。古典作品から現代作品まで、ジャンルを問わずに演奏できる、懐の深さを有した楽器です」
―イッサーリスさんはガット弦を使用していますが、弦との相性、それから弓との相性は?
「いずれも問題はありません。ただし、レパートリーによっては、他の楽器を使う場合があります。カバレフスキーやショスタコーヴィチなどのロシア作品を演奏するときは、モンタニアーナを使っています。私がもっているモンタニアーナはとてもパワフルで、ロシア作品が要求する表現に合うと思うからです。グァダニーニも長年弾いてきましたが、こちらは優美で繊細で、とても洗練された音色をもっている。“フォイアマン”はその両面を併せもっています。よくストラディヴァリウスは楽器自身の個性が強いために、演奏家が苦労するという話を聞きますが、“フォイアマン”に関しては、そうした強烈な個性に振り回されることはありません。もちろん、個性的で簡単に弾きこなせる楽器ではありませんが、弾き込んでいくうちにぼくの音楽に対する考えを深く理解し、それに応えてくれる。生きた音楽を奏でてくれるのです」
―子ども時代に、もう自分の楽器はチェロだと決めていらしたのですか。
「わが家は音楽一家で、母や姉たちがピアノやヴァイオリンやヴィオラを弾いていて、末っ子のぼくが生まれたときにもうチェロが用意されていた(笑)。チェリストがいれば、アンサンブルの幅が広がるからです。やるしかない、という感じでしたね。まず、8分の1の分数楽器から始め、徐々に大きな質のいい楽器へと移りました。そして“フォイアマン”にめぐり合えた。この楽器は不思議なことに、夢を見させてくれるような面がある。深い愛で包み込んでくれるというか、チェリストに愛を語りかけてくる。情熱的で官能的でもあるんですよ。なんだかミステリアスでしょう」
―よく楽器は以前の奏者の弾きグセというか、音を覚えているという話を聞きますが…。
「まさにそう。ぼく以前にだれが弾いていたのか全部は知りませんが、あるときカリフォルニアで演奏していたとき、フォイアマンの音を覚えているな、と感じた瞬間があります。ことばではうまく表現できないんですが、フォイアマンが出したであろう芯の強い音、すばらしい技巧が楽器から生まれてきたんです。楽器に導かれた感じがしました。ぼくは祖父(ロシアのピアニスト兼作曲家のユリウス・イッサーリス)の残した作品を演奏するときに、あたかも彼に導かれて演奏する感じがして深い感銘を得ますが、それととても似ていました」
―祖父のユリウスさんの思い出を。
「ぼくが小さいころ、もう祖父は晩年で病気がちでした。でも、威厳に満ち、偉大な音楽家との絆を感じさせてくれた。祖父はカザルスに作品を献呈したり、ラフマニノフと交流があり、祖母がそうした人々の手紙をもっていました。祖父からは、音楽に対する愛情を学んだ気がします。音楽への敬意も」
―いつもたくさんの夢をおもちですが、次なる夢を教えてください。
「“フォイアマン”とともに愛するシューマンの作品を数多く弾いていきたい。以前からヨーロッパでシューマンの映像作品を作ったりフェスティヴァルを開催したりしていますが、来年は日本でシューマン・フェスティヴァルを行います。密度濃い内容になるよう、いま構想を練っているところ。期待してください」

 イッサーリスはクリクリの巻き毛で、いつ会ってもバッハやヘンデルのかつらのようなヘアスタイルをしている。「パーマがいらないからいいわね。うらやましい」といったら、「何いっんてだよ。ぼくは子どものころからきみみたいなストレートな髪にならないかなって、いつも髪を引っ張っていたんだよ」といわれ、「ないものねだりだよねえ」と笑い合った。
 今日の写真はそのときの雑誌の一部。この楽器がまさにその“フォイアマン”です。拝ませてもらいました(笑)。

| インタビュー・アーカイヴ | 22:32 | - | -
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