Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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スティーヴン・コヴァセヴィチ
 先日、ルドルフ・ブッフビンダーの演奏するベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いて深い感銘を得たばかりだが、16年前には、1940年ユーゴスラヴィア系アメリカ人としてロサンゼルスに生まれたスティーヴン・コヴァセヴィチが、すばらしいベートーヴェンを聴かせた。
「インタビュー・アーカイヴ」の第41回は、そのコヴァセヴィチの登場だ。

FM fan 1997年4月21日〜5月4日号 No.10

ベートーヴェンの作品には人間的感情が存分に現れ、
情熱や優しさ、恋心などが感じられる


 1994年にベートーヴェンのピアノ・ソナタでグラミー賞にノミネートされた実力派ピアニスト、スティーヴン・コヴァセヴィチが昨秋18年ぶりに来日。得意とするベートーヴェンやドイツ・ロマン派の作品で底力を見せつけた。
 1975年まではスティーヴン・ビショップと名乗っていたが、これは母親が再婚した相手の姓で、その後考えるところがあって父親の姓である旧姓に戻し、現在は生まれ変わった気持ちで演奏に臨んでいるという。

モーツァルトも難しいですけど、
ベートーヴェンはとにかく難しい


―現在ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲の録音が進んでいますが、いま全集に踏み切ったのは何かきっかけがあったのですか。
「私は以前EMIで録音していたことがあり、その後しばらく離れ、また4年ほど前に戻りました。そのときに企画が出たんです。ただし、全集というのは正直いってキツイ。ベートーヴェンは大好きですが、全部のソナタが好きというわけではないんです(笑)。それをどう克服し、質の高い演奏にもっていくか、それが鍵ですね。ベートーヴェンはとにかく難しい。モーツァルトも難しいですけど、まったく違った意味での難しさがある。ベートーヴェンは冒険的ですから。
 でも、こうして2002年までにひとつの全集を作り上げるというのは、とても大きな意味を持ちます。以前は落ち着きがなく、すごくアガるピアニストでした。よく恩師のマイラ・ヘスにいわれたものです。そんなに焦って速く弾くなって。安っぽいといわれました。そんなときは私も若かったせいか『フンッ、お高くとまって』なんていい返しましたけど。それがいまやゆったりした気分で音楽と向かい合えるようになった。これは指揮を始めたことが影響しています」
―ベートーヴェンは冒険的とおっしゃいましたが、それは曲の斬新さを意味しますか。
「《ハンマークラヴィーア》を見てもよくわかります。これはとても個性的な曲で、非常に高度なテクニックを要求している。当時のピアニストが本当にうまく弾けたんでしょうか。ベートーヴェンの目指す新しさが理解できたのかな。そういうことを考えると、作品が意味深く、楽譜からもっと多くのことを読み取らなければという気持ちになります。
 冒険的とは、従来のピアノ曲では考えられない書法を取り入れているからです。でも、私はベートーヴェンは偉大な作曲家だから尊敬の念を抱き、神のように崇め、姿勢を正して立派な演奏をしなくてはいけないとは思いません。作品には人間的感情が存分に現れ、情熱や優しさ、恋心などが感じられます。それを自分なりに表現したいと思っています。
 ベートーヴェン自身、相当荒っぽい、まちがいだらけの演奏をした人みたいですよ。人間らしくていいじゃありませんか。心が熱くなりますね」

指揮をしたことで大きな変化を。
音楽の見かたが変わったんです


―指揮をしたことが、ピアニストとしてのコヴァセヴィチさんにどう影響しましたか。
「これはもう大きな変化をもたらしました。音楽の見かたが変わったんですから。以前はコンチェルトや室内楽でも、ほかの演奏家にあまり注意がいかなかったのですが、指揮を始めてから全体を考えるようになりました。
 でも、ピアノを弾くよりも指揮のほうがよっぽど楽です(笑)。自分のからだを使いながら演奏するというのは、本当に大変なんです。決してミスは許されないし。ただし、指揮は決して簡単なものではないということも学びました。いい加減な譜読みではオーケストラがついてきてくれません。
 初めてベートーヴェンの《第9》を指揮したときのことをよく覚えています。これは《皇帝》を弾くことより数段精神的に楽でした。それはあくまでも精神的な面でということです。だって、この私が全然アガらなかったんですから。奇跡でしょう。《皇帝》なんか、もう50回は弾いているのに、いまでもアガるんですから…」

ベートーヴェンの録音が終わったら
指揮とピアノの割合を半々に


―それでは、これからは指揮にかなりの比重がかかることになりますか。
「ベートーヴェンの録音が終わったら、指揮とピアノの割合を半々にしようと考えています。夢は《ニュルンベルクのマイスタージンガー》を振ること。もうワーグナーが好きで好きで、これが振れたらほかに望むことはないですね。もちろん《カルメン》も《ラ・ボエーム》も好きですよ。でも、ワーグナーの引力は強い」
―指揮を始めると、ほとんどの人がピアノを弾かなくなってしまいます。絶対それはないですよね。ピアノは弾き続けてください。
「ハッハッハ、もちろん大丈夫。じゃ、ピアノの予定を話しましょうか。つい先ごろリン・ハレルと組んでブラームスのチェロ・ソナタを録音しました。実は、ファスベンダーとヴォルフのリートを入れる話があったのに、彼女の引退までに話が進まなかった。残念でたまりません。リートの伴奏はとても興味があるのに。ソロでは、ショパン、リスト、ラヴェルに重点を置いていきたい。それからシベリウスの交響曲第4番を振る計画もあります。いま常任指揮者の話もきているし。あっ、また指揮の話にいってしまった。マズイなあ」

 コヴァセヴィチは、アルゲリッチのパートナーだったことでも知られている。その話題になると、途端に顔を赤らめ、「私は、生涯彼女を愛しているんですよ」と少年のような表情を見せた。
 うーん、アルゲリッチの魅力はやはりすごいのね、と彼のはにかんだ顔を見て感じ入った。
 今日の写真はその雑誌の一部。彼、純粋な目をしているでしょう。


| インタビュー・アーカイヴ | 22:39 | - | -
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