Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ラドゥ・ルプー
 今月発売の「音楽の友」に、「いまイチオシのピアニスト」を何人かの評論家やジャーナリストが書くというページが登場する。
 私は、ラドゥ・ルプーを選んだ。長年、彼の演奏を聴いていないため、切望しているからだ。ヨーロッパのコンサートの絶賛された批評を読むたびに、静かな歓喜とでもいおうか、人々の深い感動が伝わってくる。
 現在は録音も放送収録もいっさいやめ、コンサートだけにしぼっているというから、ホールに足を運ぶ以外、演奏に接する機会はない。
 2010年には9年ぶりの日本ツアーが予定されていたが、初日公演直後に急病で帰国してしまい、非常に残念な思いをした。
 そのルプーが11月に来日し、8日と13日に東京オペラシティコンサートホールでシューベルトをメインにしたリサイタルを開く。いまから胸がドキドキするような思いだ。
 ルプーの演奏では、1994年に来日したときのことがいまだ忘れられない。すばらしく心に響く演奏だったからである。
 聴衆をまったく意識しないでピアノを弾くということははたして可能なのだろうか。やたらに客席ばかり意識して演奏する人には首をひねるが、ルプーのように楽器に向かうと何も目に入らないという人も、およそ人間ワザとは思えず不思議な感覚を抱く。
 演奏家はよく、演奏が始まると別世界に入ってしまうから他のことは見えないというけど、ルプーほどの没頭型も珍しい。
 ラドゥ・ルプーは1945年ルーマニア生まれ。「千人にひとりのリリシスト」と呼ばれ、情緒豊かで繊細なその演奏は、シューベルトやブラームスなどで真価を発揮してきた。彼は音楽以外では決して自己主張をしない。インタビューはもってのほか、音楽観を語ることには意義を見出さない。だから、常に素顔は謎に包まれている。
 相当の気難し屋のようだが、演奏はこのうえないロマンにあふれている。7度目の来日にあたる1994年の11月の日本公演では、ドイツ音楽のほかバルトークをじっくりと聴かせた。これがとてもロマンティックで、土の匂いのする民族的なバルトークではなく、リリックで香り豊かな舞曲に仕上がっていた。
 これほど美しい響きを生み出すルプーはいったいどんな性格の持ち主なのだろうか。インタビューできないとなると、なお興味がそそられる。
 彼はアンコールでもシューベルトやベートーヴェンの小品をかろやかに弾き、曲のなかで音楽に対する気持ちを明確に表現していた。9年ぶりに録音したシューベルトのピアノ・ソナタでも作曲家の歌心をあくまでも清らかに再現していたが、演奏を聴く限りこんなロマンティストはいないのではないかと思ってしまう。
 彼の場合は録音よりもナマのほうが数段響きが強い。決して打鍵は強くないのだが、響きが遠くまで静かに浸透する。それは絶妙のペダリングに秘密がありそうだ。このへんのこと、本当は質問して聞きたいんだけどな。
 取材は無理だから、演奏だけでがまんしなければならない。きっと11月の来日公演も、また私の心をとりこにしてくれるに違いない。
 今日の写真はその演奏会のチラシ。以前は、修行僧か哲学者のような風貌だと思ったが、今回もそれに拍車がかかっているのではないだろうか。

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