Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

ブログ

<< 月末の締め切り | main | マウリッツハイス美術館展 >>
パスカル・ロジェ
 単行本のフランスのところに、私がその音色に魅せられているパスカル・ロジェのことを書いた。
 インタビュー・アーカイヴの第44回はそのロジェの登場。

[FM fan 1997年8月11日〜24日 No.18]

ボルドーの上質な赤を思わせる芳醇で色彩感あふれる音色が身上

 フランスの実力派ピアニスト、パスカル・ロジェはフランス作品ばかりではなく、ブラームスをはじめ、リスト、バルトークなど幅広いレパートリーをもつことで知られる。だが、最近は自国の作品を弾くことに集中し、ステージでも録音でもフランス作品を積極的に取り上げ、その粋で洒脱で色彩感に富んだ演奏で確固たるポジションを確立している。
 彼はふだん着の色合わせも実に巧妙で、その音楽同様美しい色彩感に彩られている。

「私は昔から、“色”というものに非常に強い関心を抱いてきました」

―ロジェさんはいつも淡い色をシンプルに着こなし、その色彩感についあなたの音楽を連想してしまいますが、フランス音楽に宿る色彩感というものをどうとらえていますか。
「今日はちょっとおしゃれをしてきたんですが、それが功を奏しましたね(笑)。私は服装というものはその人のキャラクターを反映するものだと思います。どんな色のシャツにどんな色のタイを合わせるかを考えるのは楽しい作業です。私は昔からこの色というものに非常に強い関心を抱いてきました。
 音楽面で見ると、フランス作品には豊かな色彩が感じられます。それらを学ぶときに絵を見ることは欠かせません。それは印象派ばかりではなく、さまざまな時代の絵がその時代の音楽に少なからず影響を受けているからです。
 よくドビュッシーの作品は色彩と関連づけて論じられますが、フォーレもプーランクもサティもパーソナリティは違いますが、そこにはある共通した色が存在していると思います」
―ラヴェルにはそうした色の共通性はないとお考えですか。
「ラヴェルは特別な色をもっています。音全体がクリアで透明感に満ちている。明確さと正確さが2大要素だと思います。これらフランス作品はよくもやもやした霞がかかったような絵と同じようにいわれますが、私はもっとクリアな響きをもっている音楽だと考えています。
 たとえばモネの《ルーアン大聖堂》を思い出してください。あの絵は全体的に淡い色彩で光もけっして強くない。でも、輪郭はしっかり描かれている。ラインがはっきりしているでしょう。多くのフランス音楽もこのようにラインは明確に表現されなくてはならないんです。そこに繊細さと特有の色を加えなくてはならない。これが一番難しいところですね。
 ただし、プーランクとサティは印象派ではなく、キュービズムの影響を受けていると思います。これらの各作品の表現の違いにはペダルが重要なキーとなります。ペダルで音に微妙な変化をつけていくわけです」

「最近になって、フランス音楽が本当に自分に合っているとわかったんです」   

―最近のロジェさんは、再びフランス作品に戻ってきた感じがしますが…。
「若いころはあらゆる作品を片っぱしから弾いていましたからね。でも、あるときふと気づいたんです。自分がもっとも弾きやすい曲は何か、もっとも表現しやすい分野は何かってね。自分への問いかけです。それでフランス作品に行き着いた。これには長い年月がかかったんです。
 人はキャリアを積むことにより、また年齢を重ねることにより、徐々に目が開かれていくものですよね。より心がオープンになり、考えもインターナショナルになっていく。私もフランス人にしては珍しいとよくいわれますが、フランス第1主義ではありません。いろんな国に行くと必ずその土地になじむように努力し、ことばを覚え、食べ物も土地の物を食べ、自然や風土に親しみ、人々との交流を好みます。
 でも、そうなればなるほど自分の本当に弾きたい音楽というものが突き詰められていって、レパートリーが絞られてくる。最近、フランス音楽が本当に自分に合っているとわかったんです。これは音楽家として、人間としてのアイデンティティの問題かもしれない。ですから、いまはフランス作品を弾くのが楽しくて仕方がない。人生の喜びなんです。
 1999年はプーランクの生誕100年にあたる年ですが、ここに向けていまプーランクのピアノ作品の録音が進められています。プーランクは昔から大好きで、演奏しているとおいしいワインを飲んだときのような幸福感に満たされます。ボルドーの上質な赤を飲んだような。この幸福感を聴いている人にも味わってほしいんです。
 私はつねに演奏を通じて聴衆と密接なコミュニケーションがとれるよう努力しています。その語りかけを受け取ってほしい。
 フランス作品はそれが作られた環境を知ることが大切です。それには絵画、料理、ワイン、自然が欠かせません。さあ、みんなでワインのような音楽に酔いましょう(笑)」

 ロジェの音楽からは絵画が連想されることはもちろんだが、どこからか詩が聴こえてくる感じがする。アポリネールやコクトー、ランボー、プルーストなどの詩を愛するというロジェの音楽は、それ自体が詩の朗読のトーンをもっている。ロジェは、芸術や文化が昔はそれぞれ密接な関係をもっていたのに、現在は分離してしまって残念だといった。彼の演奏は、失われた各芸術のつながりを音という媒体で結びつけている貴重な存在かもしれない。

 今日の写真はその雑誌の一部。モノクロなのでわからないが、とても淡い美しいトーンのスーツとシャツとタイの組み合わせ。うーん、いつもながらの、そのコンビネーションのすばらしさにため息が出るほどだった。

| インタビュー・アーカイヴ | 21:39 | - | -
CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< July 2017 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE