Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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マキシム・ヴェンゲーロフ
 今日は、マキシム・ヴェンゲーロフの演奏を聴きにサントリーホールに出かけた。
 マキシムの演奏を聴くのは、本当に久しぶりである。今回の来日は「ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013」と名付けられ、6月10日にオーチャードホールで「ベートーヴェン&ブラームス・プログラム」が行われ、今日は「リサイタル」、明日もサントリーホールで「弾き振り公演」が予定されている。
 数年ぶりに聴く演奏は、なぜかとてもなつかしい感じがした。ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第4番からスタートしたのだが、肩の故障は完全に直り、以前の音が戻っていた。
 太くまろやかで情熱的なマキシムの音が、鍛え抜かれたフィンガリングと自然なボウイングによって私の心の奥に沁み込んできた。
「ああ、これがヴェンゲーロフの音楽だ」
 いつしか、作品はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第10番に移っていたが、私の心は音に酔いしれていた。
 このソナタでは、マキシムは親しい友人であり、指揮の指導者でもあるピアノのヴァグ・パピアンと、瞑想的で幻想的な曲想を大切に、お互いのコミュニケーションをより密度濃いものにしながら弾き進めていった。
 後半は有名なフランクのヴァイオリン・ソナタ イ長調。耳になじみ深い作品を、マキシムはまさに名人芸を存分に発揮するように美しく奏で、完全復活をアピール。さらに以前より安定した姿勢、自然な脱力、気負いのない演奏で作品のよさを前面に押し出した。
 彼の演奏は完全に変わった。よく、ピアニストが指や腕の故障を乗り越えた後に、演奏が大きく変貌することがあるが、マキシムのヴァイオリンもひと皮むけたといおうか、人生の苦難を経験した人だけがもつ強さが感じられた。
 最後は、サン=サーンスの「ハバネラ」と「序奏とロンド・カプリチオーソ」で締めくくり、真に巨匠的な演奏に会場は喝采の嵐に包まれた。
 鳴りやまない拍手に応えてアンコールを3曲弾いたのだが、3曲目はマスネの「タイスの瞑想曲」だった。
 これまで機会があるごとに、マキシムの本を書いたときにイスラエルのミグダルの自宅でこの曲を聴いたときのことを書いてきたが、今日もこれを聴いた途端、私の脳裏には15年前のあの家の様子が浮かんできた。
 目を閉じてじっと聴き入っていたら、あのときの取材のさまざまなことが蘇ってきて、音楽のもつ不思議な力に心が震えた。
 ある曲を聴くと、それを聴いたときに瞬時にタイムスリップしてしまう。「タイスの瞑想曲」は、私にとってそういう曲である。
 終演後、楽屋で久しぶりにマキシムと会った。
「もうすっかり肩が直ったようで、安心したわ」 
 私がいうと、マキシムはいぜんと変わらぬ笑顔で答えた。
「うん、もう完全に直ったよ、大丈夫。心配してくれてありがとう」
 明日もまた、ヴェンゲーロフ・トーンを聴きにサントリーホールに出かけようと思っている。
 今日写真は楽屋でのマキシム。かなり恰幅がよくなって、ハグをしたら、私の手は両手が届かなかった。顔は細いんだけどね(笑)。

| 親しき友との語らい | 23:48 | - | -
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