Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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セルゲイ・シェプキン
 ロシア出身で、現在はアメリカ在住のピアニスト、セルゲイ・シェプキンは、2007年に初来日し、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を演奏して日本のファンに大きな衝撃を与えた。
 彼の「ゴルトベルク変奏曲」は、これまで耳にしたことのない解釈と奏法で、私は聴き込むほどに深い海の底にもぐっていく感覚を覚えたものだ。
 当時、さまざまなところにこの演奏について綴り、「ジャック・マイヨールの素潜りを連想させた」と表現したものだ。
 その後、何度か来日し、2010年には13年ぶりの「ゴルトベルク変奏曲」の再録音をリリース、この録音は世界中で高い評価を得た。
 そして12月16日、シェプキンは再びすみだトリフォニーホールに姿を見せ、「ゴルトベルク変奏曲」を披露した。
 ずっと彼の演奏を聴き続け、今回のプログラムにも原稿を寄せたが、そのつど演奏は大きな変容を遂げている。
 この夜は、折しもベートーヴェンの誕生日にあたるため、まずベートーヴェンの「6つのバガテル」作品126で幕を開けた。これはシェプキンが「ゴルトベルク変奏曲」と合わせてぜひ弾いてみたい、と願った作品である。
 冒頭から、鍛え抜かれたテクニックに裏付けられた、クリアで凛とした響きがホールを満たしていく。6つの小宇宙のような作品を、シェプキンはときに歌謡性を前面に、またあるときは自由な発想をもって奏で、後期のベートーヴェンのピアノ組曲のような作品を色彩感豊かに表現した。
 シェプキンの「ゴルトベルク変奏曲」はこれまで何度聴いただろうか。今回は、以前よりも発想が自由になり、装飾音が自在に入れられ、あたかもチェンバロのような響きとフレーズの作り方を示し、アーティキュレーションも明確になり、細部まで神経が張り巡らされていながらも全体を俯瞰する大きな目が感じられた。
 それゆえ、以前のひたすら深く沈静していく様相は消え、天空に飛翔していくような自由闊達さが際立っていた。
 終演後、シェプキンに会うと、いつもながらのおだやかな笑顔を見せてくれた。彼は「バッハは本能に基づいて弾いています」という。それが聴き手の心にストレートに届き、深い感銘をもたらす。
 今日の写真は、笑みを浮かべるシェプキン。集中力に富んだ演奏のあとだけに、ホッとしているのだろう、安堵の表情にも思える。
 だが、まだ私の頭のなかでは、最後のアリアが鳴っていた。


 
| アーティスト・クローズアップ | 22:26 | - | -
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