Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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デニス・マツーエフ
 ソチ・オリンピックの閉会式は、ロシアの文化、芸術などが前面にフィーチャーされ、クラシックの音楽家も何人か出演していた。指揮者のワレリー・ゲルギエフ、ヴィオラのユーリ・バシュメット、そしてピアノのデニス・マツーエフ。
 マツーエフは、浅田真央がフリーで使用した、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の第1楽章を演奏した。
 そこで「インタビュー・アーカイヴ」の第54回として、マツーエフを取り上げたい。これまで何度かインタビューをしているが、彼はいつもとてつもなくテンションが高く、話題があちこちに飛んでいってしまい、本題に戻ってくるまで時間がかかる。インタビューは時間が限られているため、私はかなり焦るが、それを見て、彼はもっと雑談に拍車がかかっていく。
 悪気はないのだろうが、こういうときはインタビュアーの資質が問われることになる。というわけで、私はいつもの「マシンガントーク」を発揮、早口でガンガン攻め立てる。
 最近会ったのは、2012年3月。このときの様子はブログの3月23日に書いたので、よかったらのぞいてみてくださいな。今日はその前のインタビューをご紹介したい。

[intoxicate 2006年10月]

この録音はこれまで積み上げてきたものが集約されていると思うんだ

 ロシアが生んだ逸材と称されるデニス・マツーエフは、からだはがっしりと大きく、音楽もロシアの大地を思わせるような雄大さと底なしのエネルギーをもつ。そんな彼は1998年のチャイコフスキー国際コンクール優勝以来何度か来日し、そのつど個性的な演奏を披露してきたが、録音にはなかなか踏み出さなかった。
「チャイコフスキー・コンクールの優勝者は、とてつもなくプレッシャーかかるものなんだと思い知らされた。コンクール後は世界各地を飛び回って演奏をこなし、ここ数年間はまるで“飛行機のなかで生活している”感じだった(笑)。どこにいってもコンクール優勝者の名に恥じない完璧な演奏をしなければならない。精神的に非常にきつく、どんなに練習しても満足のいく演奏ができず、もっともっと上をと自分を追いつめていく形になってしまった。こんな状態ではとても録音で自分の演奏を残すということは考えられなかった」
 実は、優勝直後に話を聞いたときは自信たっぷりで、態度も悠然としていた。「コンクールのときはちょうどワールドカップと重なり、出番がないときはテレビでサッカーを見ていたんだよ」と笑い飛ばしていたのだが…。
「本音をいうと、コンクール直後はまだその重圧を実感していなかったんだよ。数年たってじわじわと押し寄せてきたんだ。まるでマラソン選手のような生活で、ゴールを目指してひた走り、常に緊張感を強いられる。そして必ず成功するという結果を求められる。ぼくは精神的に弱いほうじゃないと思ったけど、やはり常に100パーセントの演奏ができるわけじゃないし、録音だとそれが半永久的に残ってしまう。ようやくここにきて積み上げてきたものが集約できるという確信がもてたので、長年弾いてきた《ペトルーシュカ》からの3楽章と大好きな《四季》を組み合わせる選曲をしたんだ」
 マツーエフは10歳のときにモスクワでホロヴィッツのナマ演奏を聴き、大きなショックを受けた。
「いまのぼくがあるのは、あのときにホロヴィッツを聴いたから。ピアノからあんな魔法のような音が出るなんて信じられなかった。演奏に磁石のように引き付けられ、からだが金縛りにあったようだった。その日からぼくのピアノに対する意識が変わったんだ。腕白で飛び回って腕を骨折したりしていたぼくが、ピアノからいかにすばらしい音を出すかに神経を注ぐようになった。偉大なピアニストはみな特有の音をもっているけど、ホロヴィッツは格別。その才能に感謝と尊敬の念を抱いている。まだ日本ではリリースされていないけど、《ホロヴィッツに捧ぐ》は彼の生誕100年を記念して録音したもの。ぼくもいつの日か“ああ、これがマツーエフの音だ”と思ってもらえる演奏家になりたい」
 一見するとアスリートのように見えるマツーエフ。テニス選手のマラト・サフィンとは、大の親友だそうだ。

 今日の写真はその雑誌の一部。閉会式でも、192センチ、堂々とした体躯のマツーエフは大きな舞台で思いっきりラフマニノフを弾いていた。次にインタビューの機会があったら、このときの様子を聞いてみたい。きっとまた、すっごくテンションが高い話になるんだろうな(笑)。


 
| 終わりよければ…取材奮闘記 | 20:43 | - | -
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