Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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エフゲニー・キーシン
 4月13日を皮きりに5月4日まで、エフゲニー・キーシンのピアノ・リサイタル2014年日本公演が行われている。
 今日はその合間を縫って、帝国ホテルで「記者懇親会」が開かれた。
 音楽ジャーナリスト、新聞記者、音楽雑誌の編集長ら10人ほどが集まり、キーシンを囲んで自由な語りの場となった。
 さまざまな話題が出たが、まず今回のリサイタルのプログラムの話題から入った。キーシンはシューベルトのピアノ・ソナタ第17番とスクリャービンのピアノ・ソナタ第2番「幻想ソナタ」、「12の練習曲」より7曲をプログラムに組んでいる。
 スクリャービンは子どものころからずっと弾いていて、大好きなのだという。これにシューベルトを合わせるという考えは、自然に生まれたそうだ。
 このスクリャービンの話のなかで、ひとつエピソードを披露した。
「子どものころ、歴史の先生がスクリャービンとチェーホフの関連性を話題にしたんです。ぼくはスクリャービンはロマンティシズムあふれる作品を書いた作曲家であり、チェーホフはリアリズムに徹した作風が特徴だと思っていましたので、先生が関連性を説いたときには驚きました。ぼくはこのふたりは対極にある人だと思っていましたので…」
 キーシンは、けっして雄弁なタイプではない。ひとつの質問に対してじっくりとことばを選び、ゆっくり話す。しかし、どんな質問にも誠意をもって答える。
 これは昔から変わらぬ性格であり、いつまでも少年のような初々しさを感じさせる面でもある。
 キーシンのインタビューはこれまで何度も行い、そのつどさまざまなことを聞いてきたが、いつも読書家である彼の知識の豊富さが話のなかに顔を出す。
「指揮をしたいですか」との問いには、こんな答えが戻ってきた。
「ピアノは作品数が多いので、指揮をする時間はありません。もしも、ぼくがヴァイオリンを弾いていたら、もう少し時間に余裕があり、指揮をする時間ができたかもしれませんが…。そういえば、オイストラフは晩年になって指揮活動を少ししていたそうです。でも、フリエールに宛てた手紙では、ヴァイオリンがいかにすばらしいかと書いてあったといわれています」
 ここで、現在のロシアとウクライナ情勢をどう思うかと聞かれ、「非劇的な状況としかいえない」と、困惑した表情を見せた。
 キーシンは、スクリャービンを各地で演奏しているが、多くの人があまりこの作曲家の作品を知らず、演奏を聴いてそのよさに開眼することに無上の喜びを感じるという。
「10年前、メトネルの作品を弾いたとき、ほとんどの人が初めて耳にする曲だったのですが、とてもいい曲だといって感動してくれました。バラキレフが編曲したグリンカの《ひばり》を弾いたときも、同様です。こんなふうに、みんなが知らない曲をぼくが弾くことによって、ロシアへの関心が高まり、ロシアの作品のよさを知ってもらうことができる。これが一番の喜びですね」
 キーシンは、現在ロシア、イギリス、イスラエルの国籍をもっている。それに関しては、「ロシアの文化のなかで育ち、ヨーロッパの民主主義の基礎を築いたイギリスの重要さを理解し、自分の民族(ユダヤ人)としての自覚に目覚めたから」だと説明した。
 キーシンは子どものころから詩集をポケットに忍ばせているようなところがあった。本人は、もうその記憶は薄れているそうで、現在は文学書や芸術に関する本は大変な集中力を要するため、残念ながらツアー中に読む時間はないといった。
 そしてロシアの詩では何かお薦めがあるかとの問いには、何人もの名前を挙げたが、「ロシアの詩人の詩は、ぜひ原語で読んでほしい。日本語訳になった場合、真意が伝わるかどうか疑問だから。できることなら、録音で詩の朗読を聴いてほしい。詩の微妙なニュアンスが理解できると思うから」と締めくくった。
 今日は、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」のキーシンのページにサインしてもらったのだが、「なんでロシア人だとボルシチなの。ウチの母が作るボルシチは肉がまったく入っていないんだよね。スープみたいなので、好きじゃない。絶対に第2作目を書いて、そこにもぼくを登場させてよ。今度はボルシチじゃなくて、ほかの料理にして」と真顔でいわれてしまった。
 そうか、ボルシチは好きじゃないのね。よ〜くわかりました。違うレシピを考えて、どこかで発表するからね(笑)。
 今日の写真は会見中のキーシン。難しい政治がらみの質問を受けて、ちょっとことばを考えているシビアな表情。
 キーシンは、3月10日にカーネギー・ホールで今回と同様のプログラムを演奏し、大絶賛されている。東京公演が楽しみだ。 


 
 
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