Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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マティアス・ゲルネ
 自分が行ってきたことがまちがっていなかった、と確信をもてる瞬間はそうそう巡ってくるものではない。
 先日、マティアス・ゲルネのインタビューをしたときに、その数少ない瞬間が訪れた。
 ゲルネはワイマールに生まれ、ライプツィヒで学んだドイツのバリトン。オペラとリートの両面で活躍し、いまや世界的な名声を獲得している。
 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、エリザベト・シュヴァルツコップという歴史に名を残すリート歌手に師事し、正統的な後継者といわれる。
 今回の来日では、シューベルトの3大歌曲連続演奏会が組まれ(5月13日〜15日、紀尾井ホール、ピアノはアレクサンダー・シュマルツ)、得意とするシューベルトの世界を披露することになっている。
 バリトンの好きな私は、以前からゲルネの歌声に魅了されてきた。ステージでの類まれなる集中力に満ちた、研ぎ澄まされた歌声は、一度聴くとやみつきになるほどだ。
 歌詞の発音、表現の見事さ、深い洞察力に富む解釈、自由闊達なうたいまわし、怖いほどの迫力にあふれた表情で聴き手に強く訴えかける歌唱法は、作品の新たな発見を促すもの。いつも演奏を聴きながら、いつかインタビューをしたいと願っていた。
 今回それが実現し、NHK交響楽団の定期公演のソリストとして、ワーグナーの楽劇のなかのオランダ人とウォータンをうたうリハーサル会場におじゃました。
 リハーサルから出てきた彼は、まさに大迫力。恰幅がよく、目力が強く、存在感があり、汗びっしょりだ。
 しかし、ステージでのコワモテとはまったく異なり、大きな目がやさしく微笑んでいる。
「ウワーッ、怖そうだけど、やさしそう」(私はいったい何をいっているのか)
 さて、いざインタビューが始まると、ひとつひとつの質問に対し、ことばがあふれんばかりに飛び出してくる。今回のドイツ語の通訳は、ゲルネのリートクラスでピアノを学び、現在は帰国してドイツ語学校でドイツ語を教えているというOさんが担当してくれ、流れるようなゲルネのことばを立て板に水のように訳してくれた。
 このインタビューは、今月末の「日経新聞」、5月から6月にかけてのヤマハのWEB「音楽ジャーナリスト&ライターの眼」、「音楽の友」(掲載時期は未定)に書く予定になっている。
 彼はシューベルトの3大歌曲について、自分が受けた教育について、子ども時代の様子、これから取り組むプロジェクトについて、実に雄弁に語ってくれた。
 それぞれの答えが、まるでオペラのワンシーンのように鮮やかなことばで表現され、からだの動きも加え、目の表情も幾重にも変化していく。
 ようやくインタビューが終わり、部屋を出ようとしたとき、通訳のOさんが「ゲルネさんが、とてもいい質問だったとおっしゃっています」と伝えてくれた。
 私がそれを聞き、お礼をいいながらバーイと手を振ると、バイバーイと茶目っ気たっぷりの表情で返してくれた。
 その夜、Oさんからメールが届いた。なんでも、ゲルネがインタビューをとても気に入ったため、自身のホームページに私の記事を掲載したいといっているというのである。
 アーティストからこんな申し出があったのは初めてのことだ。気に入ったというのは、お世辞かなとも思ったのだが、ここまでいわれるとは…。
 私は人の話を聞くのが好きなため、インタビューは天職だと思っているが、ゲルネは自分がしてきた仕事がまちがっていなかった、と思わせてくれた。感謝感謝である。
 ただし、記事はドイツ語に訳してすぐに内容を確かめるだろうから、気をひきしめて原稿を書かなくてはならない。
 でも、マティアス・ゲルネのホームページに私の記事が掲載されるなんて、光栄なことである。私は単純なので、すごくうれしくなってしまった(笑)。
 今日の写真は、インタビュー後のゲルネ。13日からの3日間のシューベルト、すっごく楽しみ。今回感じたことだが、彼は完璧主義者だ。そして大いなる自信に満ちている。そのすべてが3大歌曲に現れるに違いない。


 
 
| アーティスト・クローズアップ | 22:39 | - | -
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