Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

ブログ

<< 末っ子トリオの会 | main | 柳澤寿男 >>
アルド・チッコリーニ
 最後のアンコールが終わると、会場を埋め尽くした聴衆は一斉に立ち上がり、スタンディングオベーションで演奏を称えた。
 今夜は、東京芸術劇場でアルド・チッコリーニのピアノ・リサイタルが行われた。ここ何年か、来日のたびに年齢を超えたエネルギッシュな演奏を聴かせ、そのつど聴き手を驚愕させ、深い感動を与えてくれるが、今日もまた新しい作品を披露して新たな面を見せた。
 チッコリーニは1925年8月15日ナポリ生まれ。のちにパリに移り、フランス国籍を取得している。
 杖を片手に、ステージにゆっくりと歩みを進めてきたチッコリーニだが、ピアノに向かうと一気に全身からパワーがあふれ出る。まずは、ブラームスの「4つのバラード」作品10から。不穏な空気や深い哀しみの表情が見え隠れする作品を、チッコリーニは詩を語るように淡々と、ブラームスの初期の作品ならではのみずみずしい手法を浮き彫りにしながら紡いでいく。
 2曲目はグリーグのピアノ・ソナタホ短調。この作品になって、にわかにチッコリーニのピアノが活力に満ち、グリーグの民族色豊かな主題が生き生きとうたわれ、北欧特有の自然が目の前に広がるような視覚的な演奏になった。
 後半はボロディンの「小組曲」とカステルヌオーヴォ=テデスコの「ピエディグロッタ1924ナポリ狂詩曲」という、興味深いプログラム。
 ボロディンの作品は7曲のマズルカやセレナードなどからなり、それぞれがチッコリーニの腕にかかると、淡い色彩を放つ花束のような風情をもち、とりわけ最後の「夜想曲」が幻想的な美を発していた。
 カステルヌオーヴォ=テデスコの「ナポリ狂詩曲」は、ナポリに古くから伝わる歌を題材に作られた5曲からなる作品で、歌謡性とリズムが際立つ。ナポリ出身のチッコリーニは、子どものころからこの歌に親しんでいたのだろうか。かなり難度の高い各曲の特性を生かしつつ、全編に豊かな歌心を示し、強靭なタッチで締めくくった。
 鳴り止まぬ拍手に応えて、アンコールは3曲。
 スカルラッティのソナタ ホ長調K380を愛らしく躍動感をもって、楽しそうに演奏。次いでドビュッシーの「ミンストレル〜前奏曲集第1巻」は、絵画を思わせる多彩な色を編み出し、ここでもう会場はやんやの喝采に包まれた。
 チッコリーニは「じゃ、もう1曲」というように指を1本立て、ファリャの「火祭りの踊り〜恋は魔術師」をいきなり弾き出した。
 エネルギーはまだまだ十分に残っているよ、といわんばかりの自由闊達な演奏で、スペインの湧き上がるような情熱と土の香り、民族的なリズムを遺憾なく発揮。ここで、聴衆は一斉に立ち上がった。
 チッコリーニは「バイバイ」と手を振りながらステージをゆっくりとあとにし、私は全身が音楽に包まれる幸せを感じながら帰路に着いた。
 今日の写真はチッコリーニのプログラムの表紙。同時代に生きていてよかった、としみじみ感じた一夜だった。

| クラシックを愛す | 23:19 | - | -
CALENDAR
S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< May 2017 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE