Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ロリン・マゼール
「鬼才」と称された指揮者、ロリン・マゼールが7月14日、肺炎およびその合併症により亡くなった。享年84。
 マエストロ・マゼールには何度かインタビューを行い、演奏も聴き続けてきた。記憶力がハンパではなく、私が撮ったウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのときの写真を希望されたことから、会えなくなってしまった。そのいきさつは、2012年12月11日のブログに綴った。ご興味のある方は、そちらをクリックしてくださいな。
 今日はマゼールを偲んで、もう一度「インタビュー・アーカイヴ」第57回で以前とは別の雑誌の記事を紹介したいと思う。一部、記事が重複している部分もあるけど、そこは飛ばしてね。
 マゼールはいつ会ってもエネルギッシュで、雄弁で、前向きな姿勢を崩さない人だった。

[BS fan 1993年6月号]

「このオーケストラで聴くドイツ音楽だったら文句はないでしょう」

 カラヤン亡きあと、ベルリン・フィルの音楽監督候補の最右翼といわれたマゼールが、その地位をアバドにさらわれるや「もう2度とベルリン・フィルの指揮台には立たない」と爆弾発言をしてからはや3年半。ウィーン国立歌劇場の総監督を辞すときも、フランス国立管弦楽団の音楽監督をやめるときも、常に物議を醸してきたマゼールだが、1988年からは故郷のピッツバーグに戻り、同交響楽団の音楽監督に就任して、このオーケストラをより向上させることに力を注いできた。そして今年、いよいよドイツ・オーケストラ界のもう一方の雄、バイエルン放送交響楽団の首席指揮者に就任することになった。
 バイエルン放送交響楽団は1949年に創設され、リヒャルト・シュトラウスの指揮によって幕開けした歴史と伝統を誇るオーケストラ。ドイツ音楽をレパートリーの中心に据え、重厚で豊かな響きをもつドイツ音楽の王道をいく演奏を聴かせる。
 マゼールが今年から5回(1年から1年半おきにわが国で定期的に行う)にわたって行うコンサート・シリーズの第1回目に、彼はこのオーケストラを選んだ。
「バイエルン放響はドイツのエリート・オーケストラです。私のディレクションによるシリーズの第1回には、ぜひともドイツ音楽をもってきたかった。それも水準の高い演奏をね。このオーケストラで聴くドイツ音楽だったら文句ないでしょう。磨き抜かれた響きと、からだのなかに染み込んでいるドイツの伝統が音となって出てきますから」
 マゼールは今回スポンサーとの話し合いのなかから、プログラムのテーマを決めた。これはスポンサーのシンボルキャラクターであるスワン(白鳥)である。「ローエングリン」の主人公である騎士ローエングリンは、白鳥の曳く小舟に乗って登場する白鳥の騎士であり、シベリウスの交響曲第5番は、湖をわたっていく白鳥を見て曲想を得たというシベリウス自身の記録が残されている。そしてブラームスの交響曲第2番は別名「田園」と呼ばれているように、風光明媚な湖のほとりで自然を満喫しながら書かれた牧歌的な曲である。
「それらの作品の底に流れる優雅さ、気品などの表情をテーマとして取り上げたわけです。白鳥は美や音楽の象徴ですし、第1回のテーマにピッタリだと思ったんでね」
 彼はひとつのテーマに基づいてプログラムを作るのが好きなようだ。以前来日したときは、自然をテーマに全プログラムを組んだ。
「本当は演奏家というのは、その場所、時間、その場の空気などから霊感を得て演奏するのが一番いいんだけど、現在はなかなかそうはいかない。インドの伝統音楽などはいまでもその方法を忠実に守っているけど…。昔はアンコールを100曲くらい書いた紙を聴衆に配って、ところでみなさんはどんな曲が聴きたいのかな”と声をかけ、2時間くらいアンコールをしたなんていうことがあったらしいけど、こういうのいいよね、理想だな」
 マゼールはこのように録音よりもナマの演奏会で燃える指揮者だ。瞬間瞬間の表情が著しく変わり、音楽は異様なまでの高揚感を見せ、ありったけの情熱をステージにぶつける。他に類を見ないほどの記憶力のよさ(どんな曲でも全暗譜)と、緻密な解釈、オーケストラをタクト1本で自在に操る偉大な才能を持ち合わせているから、さぞクールな素顔の持ち主かと思うと、あにはからんや、非常にフランクで饒舌である。
 彼はシベリウスが昔から得意で、最近録音でも積極的に取り上げている。
「第5番は前作がプツッという感じで終わっているのに対し、十分に準備されてフィナーレへの道が開かれていたから成功作となったのではないだろうか。私はこの曲ではのどかで抒情的な味わいを出したいと思っている」
 ワーグナーとブラームスという、両ドイツ音楽の厚みのある和音と、北欧の涼やかな調べは、マゼールのぐんぐん高みへ上り詰めていくような指揮ぶりで渾然一体となり、聴き手の精神をいやか上にも高揚させていくに違いない。

 このときのコンサートの様子を、別稿で書いた。

マゼールの魔術に興奮の坩堝と化した感動の一夜

 4月5日のバイエルン放響のコンサートは、3曲のアンコールが終わってもまだ拍手が鳴りやまず、会場は興奮の坩堝と化した。
 マゼールは1曲目のワーグナーでは神秘的な美しさを弦と木管から引き出して、このオーケストラのアンサンブルの見事さを示し、シベリウスではオーケストラの機能美を充分に発揮させた。ヴィオラやチェロのピッツィカートは鋭く、金管もはげしく咆哮する。しかし、それがけっして強い響きではなく、あくまでもやわらかな、森の奥から聴こえてくるような深さをもっているのはさすがドイツの名門オーケストラだ。
 それはブラームスで全開し、マゼールは自然賛歌の美しい旋律を、オーケストラの名人芸を充分に考慮しながら一幅の絵画のように鮮やかに描き出した。
 聴き終わった後に、熱い感動が心に残る、マゼールのタクトの魔術にかかった一夜となった。

 今日の写真はその雑誌の一部。ぜひ、もう一度会って話を聞きたかったが、かなわぬこととなってしまった。彼の両親は非常に長命だから、自分も長生きすると語っていたことが忘れられない。

| インタビュー・アーカイヴ | 23:26 | - | -
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