Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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リパッティとデュ・プレ
 最近は往年の名盤と称されるディスクが、とてもリーズナブルな価格で再発売され、しかもリマスターにより音質は抜群によくなり、とても聴きやすくなった。
「クラシック・マスターズ」と題されたワーナーの廉価盤シリーズは、1枚が1400円、2枚組でも2300円(いずれも+税)という価格だ。
 今回リリースされたなかでは、ディヌ・リパッティが病気を押してステージに立った「ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル」と、ジャクリーヌ・デュ・プレの代名詞ともいえる「エルガー:チェロ協奏曲」が特別な存在感を放っている。
 リパッティは、不死の病、リンパ肉芽腫症(白血病に似た症状)に侵され、33歳という若さで亡くなった不世出のピアニストである。この最後のリサイタルは、医師の反対を押してステージに立ったが、すでにステージへの階段を上るのも苦労するような状態だったとか。
 しかし、演奏は完璧な構成力と表現力を備え、情感に富み、圧倒的な美を放ち、聴き手の心を揺さぶる。J.S.バッハのパルティ―タ第1番からスタート、自然な舞曲のリズムが胸にまっすぐに響いてくる。なんとかろやかで優美なバッハだろうか。
 次いでモーツァルトのピアノ・ソナタ第8番。母の死に遭遇したモーツァルトの深い悲しみを、リパッティは天上の歌のようにうたいあげていく。
 続いてシューベルトの即興曲が2曲演奏されるのだが、もうこのあたりで、あまりにも美しく異次元の世界へと運ばれる演奏に、涙腺がゆるみ、平常心では聴けない。ウルウルウル…。
 そして極め付きは、最後のショパンの「13のワルツ集」だ。肉体と精神のバランスを失いかけたような鬼気迫る演奏で、綱渡り的な怖さを感じさせるが、演奏はゆるぎないテクニックと絶妙のルパートが全編を覆い、命を懸けてピアノと対峙している様子がひしひしと伝わる。
 残念なことに、最後に予定されていた曲は力尽きて演奏できなかったそうだが、ここにはリパッティの完全燃焼した演奏が詰まっている。何度聴いても、涙がこぼれる、そんな貴重な音の記録である。
 一方、エルガーのチェロ協奏曲は、デュ・プレのために書かれたような曲だといわれている。これを演奏するチェリストは、常にデュ・プレとくらべられるわけだから、大変なプレッシャーと闘うことになる。
 まさにここには命を削るような、もだえ苦しむような、全身全霊を懸けたデュ・プレの演奏が収録されている。1965年8月の録音で、共演はジョン・バルビローリ指揮ロンドン交響楽団。デュ・プレはこの録音で世界的な名声を獲得したが、やがて不死の病である多発性硬化症を患い、1973年に引退した。現役時代は短かったが、彼女の残した功績は人類の遺産ともいうべきもので、カップリングのディーリアスのチェロ協奏曲(マルコム・サージェント指揮ロイヤル・フィル)とともに輝かしい光を放っている。
 エルガーのチェロ協奏曲は、冒頭からはげしく深く重い。デュ・プレは血を流さんばかりにチェロをはげしく情熱的に鳴らし、ときに幻影の世界へと聴き手をいざなう。
 今日の写真はそのジャケット写真。時空を超えたこうした名演奏は、「音楽の世界遺産」とも呼べるものではないだろうか。世界遺産にそうした分野があるといいのだが…。


 
 
  
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