Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ルノー・カプソン&ゴーティエ・カプソン
 インタビューはその場の空気が大切である。ほとんどの場合は、シリアスな内容から始め、次第に雰囲気をやわらげていくのが私のやり方。
 でも、最初から爆笑続きのインタビューもあった。
 フランスのヴァイオリニスト、ルノー・カプソンと弟のチェリスト、ゴーティエ・カプソンのふたりにインタビューしたときのことである。現在はカピュソンと表記する場合もある。
 私はルノーの官能的なヴァイオリンが大好きで、来月の来日も非常に楽しみにしている。
 彼は今回、東芝グランドコンサート2015年のソリストとして、トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団と共演する。コンサートは2月20日から3月2日までで、全国8公演が予定されている。もうひとりのソリスト、ユリアンナ・アヴデーエワと交替でソロを務め、得意とするサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番を演奏する予定だ。
 これを記念し、「インタビュー・アーカイヴ」の第60回は、ルノー・カプソンの登場。ゴーティエとの絶妙のやりとりをできる限り忠実に書いたつもり。かなり長いけど、最後まで読んでくださいね。
 
[弦楽ファン 2007年 WINTER]

恋愛と同じようなもの スムーズにいくとつまらない
追求してどんどん味が出てくるほうが面白い


アルゲリッチはヴァイオリニストを大空へはばたかせてくれる



 ゴーティエはいう。
「ぼくたちがマルタ・アルゲリッチに初めて会ったのは2000年のこと。スイスのルガーノ音楽祭に呼ばれたのが最初なんだ。こんなにすばらしい偉大なピアニストと共演できるなんて、まるで夢のようだった。彼女の演奏は情熱的でスリリング。ものすごく仕事熱心な人なので、ぼくも集中力をもって取り組まないといけないと、全神経を集中させたよ」
 これに続けてルノーが語る。
「ぼくはスティーヴン・コヴァセヴィチ、フランク・ブラレイをはじめとする多くのピアニストと組んで演奏しているけど、アルゲリッチのピアノはまさにヴァイオリニストを大空へとはばたかせてくれると感じた。ぼくは共演者を限定せずに、レパートリーによっていろんなピアニストと組みたいほうだから録音でもさまざまな人と共演しているんだけど、アルゲリッチは本当に偉大だと思った。いろんなピアニストと組むと、いろんな色彩が生まれる。それを楽しみ、ぼくの音楽がそのつど変化していくのを楽しんでいる」
 ルノーとゴーティエは、5歳違い。ルノーの5歳上に姉のオードがいて、彼女は長年ピアノを勉強していたが、現在は音楽家ではなく他の仕事に就いている。ただし、新譜の「インヴェンションズ〜ヴァイオリンとチェロのデュオ・アルバム」では最後の1曲、クライスラーの「ウィーン風小行進曲」でピアノを担当している。ゴーティエがいう。
「両親は音楽家ではないけど大の音楽好きで、家にはいつも音楽が流れていて、僕は4歳半でチェロを始めた。ルノーが弾いていたからヴァイオリンは大嫌いだったし(笑)、ピアノはお姉ちゃんにとられた。それで小さなチェロに出合ったんだけど、これに一目ぼれ。まさしく自分の楽器だと思ったわけ。9歳から10歳くらいのころかな、漠然とだけどチェリストになりたいと感じていたよ」
 彼とは異なり、ルノーは7歳のときに自分はヴァイオリニストになると自覚した。
「5歳のころにヴァイオリンのCDを買ってもらって、それがオーギュスタン・デュメイの録音だった。その数日後に、両親がデュメイのリサイタルを聴きに連れて行ってくれたんだ。ナマのヴァイオリンの音色を聴いて、その美しさにショックを受けたね。ぼくもあんなふうにヴァイオリンを弾きたい、と夢見るようになった。デュメイの音に恋をしたんだ。それから実際に彼からいろいろアドヴァイスをもらうようになったんだけど、ぼくはすごくちっちゃくて、デュメイは190センチくらいあるから、いつも上を向いて話を聞いていて首が痛かったなあ」

グァルネリ・デル・ジェス1737とマッテオ・ゴフリラー1701

ヴァイオリンという楽器は不思議なもので、向こうから語りかけてくる




 ルノーは1年前までデュメイが以前使っていた1721年製ストラディヴァリウスを弾いていたが、現在はスイス銀行から貸与された1737年製グァルネリ・デル・ジェスを使っている。これは50年間、アイザック・スターンが弾いていた楽器だ。
「楽器はその前に弾いていた人の音がするといわれるため、スターンの音がしますかとよく聞かれるけど、それはなんともいえない。確かに長年スターンとの強い絆があった楽器だからその音を覚えているかもしれないけど、ぼくが弾いているとぼくの音になってくるから…。でも、スターンの魂が宿っていると感じることはあるよ。なんだかミステリアスな感覚だよね」
 実は、この楽器を貸与されるときに、ユーディ・メニューインが弾いていた楽器もあった。だが、それは選ばなかった。
「ヴァイオリンというのは不思議なもので、向こうから語りかけてくる。メニューインの楽器を弾いたときに、この楽器はぼくに語りかけてはくれなかった。恋愛と同じようなもので、相性なんだろうね。スターンの楽器は語りかけてくれ、すぐに呼応できた。楽器との出合いはタイミングもあると思う。このグァルネリは男性的で野性的で、奥深い音色が持ち味。5年前に出合っていたら、選ばなかったかもしれない。自分の成長がちょうどこの楽器に合っていたのだと思う」
 レナード・バーンスタインはスターンのために「セレナード」を作曲して献呈し、スターンはこの楽器で初演を行った。ルノーはこの楽器を手にした瞬間から、「セレナード」をいつか弾きたいと願うようになった。
 一方、ゴーティエの楽器はマッテオ・ゴフリラー1701年製。2000年に貸与され、6年間弾き込んでいる。
「ぼくはゴフリラーとモンタニャーナのチェロの響きが好きなんだ。ストラディヴァリのチェロは華やかで輝かしい音色がすばらしいけど、ぼくは渋くて野性味あふれ、しかも繊細さと情熱を併せ持つ音色の楽器が好みなんだよね。ここでいう野性味というのは、出てくる音を表現するだけではなく、楽器そのものが本来もっている性格を意味している。それをぼくがどのように引き出し、響かせるか。そこが問題なんだ。ゴフリラーは結構気難しい楽器で、なかなか思うような音が出ない。仲良くなるために四苦八苦するし、いまでもまだお互いに深く知り合うための発展途上の段階。でも、恋愛でもそうでしょ。あまりスムーズにいくとつまらない。追求していくとどんどん味が出てくるほうが面白いよね」

探求心旺盛な兄と直球型の弟




 このふたり、顔も似ていなければ、性格もまったく異なる。もちろん音楽性も違う。質問をするとすぐにゴーティエが話し出すため、ルノーは常に受けに回る。それゆえフラストレーションがたまるらしく、突然叫び出す。
「お前、少し黙れよ。ひとりでしゃべりまくってさ。いまはぼくが質問されているんだから」
 するとゴーティエは神妙な顔を見せる。
「うんうん、わかったよ。それじゃ兄貴、いっぱい話すといいよ」
 そこで、ルノーが趣味の話を始める。
「ぼくは旅から旅の生活なので、時間があるときは自然のなかをウォーキングするようにしているんだ。詩を読んだりするのも好きだよ」
「なに、気取ってんだよ。ぼくは古いジャズが好きなんだ、スキーもね。ルノーはすごく子どもっぽいんだよ。気分がすぐれないとすぐに機嫌が悪くなるし、いつも夢見るようなフワフワした顔しているしさ」
「そんないい加減な人間みたいにいうなよ。なんだよ、自分こそ短気なくせに」
 またまたことばのバトルが始まる。演奏と同様、その対話はあるリズムに支えられ、躍動感に満ち、真剣さとコミカルな味わいが混在している。ただし、ルノーは弟を反応が早く直感型の人間で、非常に多くのものを自分にもたらしてくれるといい、ゴーティエも兄の探求心旺盛でいつも新しい分野に興味をもつ姿勢を高く評価している。
 彼らは現代の作曲家とのコラボレーションにも積極的に取り組み、エリック・タンギー、ティエリー・エスカイヒ、カロル・ベッファのヴァイオリンとチェロのための新作を大いなる喜びをもって演奏している。次世代に残したいと。
 欧米の音楽祭から引っ張りだこの人気者のカプソン兄弟。ふだんはそれぞれ別の活動を行い、ときどきデュオを行う。流麗で輝かしい音色のルノー、パワフルで熱いパッションを感じさせるゴーティエの響き。フランスから世界の舞台に飛び出した実力派のふたりに、いま世界が注目している。

 今日の写真はその雑誌の一部。記事を読むとあまり「爆笑」という感じがしないかもしれないけど、実際はずっとおなかを抱えて笑っていたほど。ふたりのバトルがすごくユニークで、いま思い出してもおかしさがこみあげてくる。
 その後、ゴーティエにインタビューで会ったとき、「今回はひとりのインタビューだわ」といったら、「やったね」とVサインを出していた。つい先ごろ、ルノーに電話インタビューをしたときも同じことをいったら、「ああ、よかった」と笑っていた。ホント、このふたり、おかしい!


| インタビュー・アーカイヴ | 18:49 | - | -
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