Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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グリゴリー・ソコロフ
 日本はヨーロッパからもアメリカからも遠いため、飛行機嫌いのアーティストはなかなか来日がかなわない場合がある。
 長年「幻のピアニスト」と呼ばれてきたロシアのグリゴリー・ソコロフも、そのひとりだ。
 ソコロフは、いま世界中でもっともナマを聴きたいといわれるピアニストではないだろうか。もちろん来日公演はないため、海外公演を聴くしかないのだが、これはとても難しいことである。
 1950年サンクトペテルブルク生まれ。16歳のときにチャイコフスキー国際コンクールで優勝の栄冠を手にし、審査委員長を務めていた20世紀を代表するソ連のピアニスト、エミール・ギレリスに絶賛された。しかし、海外で演奏することは制限され、ようやくソ連崩壊後に西側で演奏できるようになる。それゆえ、長年「幻のピアニスト」と呼ばれていたのである。
 そんな彼の待望の新譜がリリースされた。「ザルツブルク・リサイタル2008」(ユニバーサル)と題されたCDで、スタジオ録音を嫌う彼の貴重なライヴ録音である。2枚組で、1枚目はモーツァルトのピアノ・ソナタ第2番と第12番。2枚目にはショパンの「24の前奏曲」が収録されている。さらに音楽祭のライヴゆえ、アンコールも6曲入っていて、スクリャービン、ショパン、ラモー、J.S.バッハの作品が演奏されている。
 ソコロフの演奏は、いずれもピアノが豊かにうたい、感情がほとばしり、多彩な色彩が描き出されるもの。モーツァルトのピアノ・ソナタはかろやかで自由闊達で、聴き手に至福のときを与えてくれるが、もっとも印象的なのはショパンの「24の前奏曲」。これまでこの作品は多くの録音を聴いてきたが、こんなにも表現力にあふれ、ストーリー性に富む前奏曲は聴いたことがない。各曲がみずみずしい生命力を放ち、聴き手の胸の奥深いところにストレートに語りかけてくる。
 聴き込むほどに心が高揚し、ソコロフとともに呼吸しているような感覚に陥る。まるで魔術にかかったように、何度も繰り返して聴いてしまうのである。
 とても臨場感ある録音ゆえ、あたかも自分がザルツブルク音楽祭の会場で聴いているような思いにとらわれ、目を閉じるとすぐそばでソコロフが演奏しているように感じられる。
 アンコールも特筆すべきで、特に最後のバッハ「主イエス、われ汝を呼ぶ」は心に染み入る演奏だ。深い打鍵と弱音の美しさが際立ち、つい頭を垂れて聴き入ってしまう。
 これを聴くと、なおさらナマの演奏を聴きたいと思う気持ちが募る。でも、日本にはきてくれないんだよねえ。ヨーロッパに出張するときには必ずその都市でのコンサートの有無を確認するのだが、そううまくいくわけもない。
 ショパンの「24の前奏曲」の絶妙のルバート、モーツァルトのソナタにおける自然な装飾音など、すっかり演奏にはまってしまって容易に抜け出せない(笑)。 
 今年前半の私のイチオシです!!
 今日の写真は、ソコロフのジャケット。ライナーノーツには、ストイックで論理的で誠実で完璧主義者のソコロフの素顔が綴られている。そういう人間性にも、無性に惹かれる。


 
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