Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

ブログ

<< アレクサンドル・タロー | main | セドリック・ティベルギアン >>
ルドルフ・ブッフビンダー
 ルドルフ・ブッフビンダーが、すみだトリフォニーホールのリサイタルのために昨日来日し、演奏後の今夜機上の人となった。
 なんとタフな人なのだろう。
 私はこの日のリサイタルをずっと楽しみにしていた。
 ホールから依頼されたチラシ裏の原稿には、こう綴っている。

 ルドルフ・ブッフビンダーは、前回完璧なる美に貫かれたベートーヴェン、シューマン、そしてブラームスのコンチェルトを披露して聴き手の心に強い感銘をもたらした。
「私は完璧主義者なんです。どんな作品を演奏するときもたいていは楽譜を8から10版研究し、徹底的に作曲家の意図したことを追求します。ひとつの音符、休符、フレーズ、強弱、リズムをこまかく研究し、少しでも作曲家の魂に寄り添う演奏をしたいと願っています」
 こう語るブッフビンダーの演奏は、ひとつひとつの音符が生命力に満ちあふれ、いま生まれた音楽のように新鮮な空気を生み出す。加えてその演奏はすこぶる精神性が高く、美しく荘厳な大伽藍のような音世界を築く。そしてその奥に、豊かな歌心と踊り出したいような躍動感が顔をのぞかせている。これがウィーン人の気質というものだろうか…。

 今日のプログラムは、前半がJ.S.バッハの「イギリス組曲」第3番からスタート。これは録音がリリースされたばかりだ(ソニー)。私はこの曲にある深い思い出がある。それゆえ、平常心で聴くことができないほどだ。
 しかし、ブッフビンダーの演奏はとてもシンプルで古典的で、しかも各舞曲が躍動感に富み、私の心に自然にスーッと入ってきた。
 次いでベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」。非常にアップテンポでドラマティックな演奏だ。
 冒頭の8分音符の刻みが美しい弱奏で開始されたときから、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの世界に強い引力で導かれていく。
 コラール風な書法、長大なロンド、随所に現れるスタッカート、トリルによる主題など、すべてがベートーヴェンのピアノ・ソナタの様式の転換期に書かれたことを意味し、ブッフビンダーの楽譜に忠実な奏法がその神髄を表現する。
 彼はひとつの作品に取り組むとき、徹底的に楽譜を検証する。ただし、それが演奏として披露されるときには、堅苦しさや難解さはまったく見せず、淡々と流れるように、あるべき姿で奏でていく。
 後半は、ブッフビンダーが得意とするシューベルトのピアノ・ソナタ第21番。これこそ今夜の白眉で、ほろ苦いまでの悲壮感、心の内を絞り出すような哀感に富み、諦念と情念と暗い熱情が全編を支配していた。
 ブッフビンダーは、いつもアンコールでさまざまな側面を見せてくれる。今日も味わいのまったく異なる3曲が披露された。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」第3楽章、J.Sバッハのバルティータ第1番より「ジーグ」、そしてブッフビンダーといえば、シュトラウス2世の「ワルツ作品56 ウィーンの夜会」である。
 最後のアンコールは、「これを聴かないと帰れない」、という聴衆でいっぱい。終演後はスタンディングオベーションとなった。
 今日の写真は、サイン会でCDにサインするブッフビンダー。
 なお、彼は10月にサントリーホール30周年記念公演の一環として行われる、ズービン・メータ指揮ウィーン・フィルのソリストとして来日する予定だ。


 
 
| クラシックを愛す | 23:51 | - | -
CALENDAR
S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE