Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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ラヴェルに魅せられて
 ある原稿を書いていたらラヴェルのことが出てきて、そのアーティストがラヴェルに魅了されているとわかり、私とまったく同様だと思った。
 ラヴェルの音楽は、官能的で幻想的で知的でクール。現代的な感覚と機知が感じられ、えもいわれぬ色香がただよっている。 
 生涯独身を貫き、よき友人に囲まれ、その生き方は粋なダンディズムを感じさせる。
 数年前の夏、パリのラヴェルの家を訪ねた。
 パリのエトワール凱旋門から放射状に伸びる12本の大通りのひとつ、カルノ通りとティルシット通りの角地に当たる4番地に残る家で、ラヴェルが1908年から1917年まで住んだアバルトマンである。
 現在は、1階がカフェ・レストランになっており、静かだった往年の面影はないものの、堅牢な建物の壁面のプレートには、ラヴェルがここでバレエ音楽「ダフニスとクロエ」を書いたと記されている。
 この時期、ラヴェルは作曲家としての完成期に入り、管弦楽曲「スペイン狂詩曲」、ピアノ曲「夜のガスパール」「高雅で感傷的なワルツ」、連弾曲「マ・メール・ロワ」などの代表作を次々に生み出した。
 1914年には、彼の室内楽曲のなかでもっとも円熟した作品と称されるピアノ三重奏曲に取りかかる。このトリオは私が深く魅了されている作品で、冒頭の繊細かつ神秘的な旋律がなんともいえない美質を放っている。
 私は、なぜこんなにもラヴェルの曲に心奪われるのだろうか。フランス・バロックの大作曲家であるフランソワ・クープランに敬意を表して書かれた「クープランの墓」も、ジャズのイディオムをふんだんに盛り込んだピアノ協奏曲も、作曲に5年かけた労作であるヴァイオリン・ソナタも、パリ音楽院時代の20歳のときの「亡き王女のためのパヴァーヌ」も、ディアギレフの委嘱による「ラ・ヴァルス」も、ラヴェルの名を世界中に広めた「ボレロ」も、すべて現代的な感覚ただよい、いまなお斬新である。
 ラヴェルがこのパリのアバルトマンに別れを告げ、ランブイエの森の近くのモンフォール・ラモリに望楼荘(ベルヴェデーレ)と題する家を見つけ、移り住んだのは母親の死と弟の結婚がきっかけだった。彼は静かな環境を欲し、作曲に専念するべく小さな愛らしい家に移ったのだが、友人たちはひっきりなしにモンフォール・ラモリを訪れたという。
 作曲家の足跡をたどる旅は、その作品へと一歩近づくことができる。
 ラヴェルのパリの家は、現在は内部に入ることはできないが、彼が歩いたであろう道や街並みを散策することで、心のなかに何かが生まれる。
 それはラヴェルの作品に内包されているさまざまなイディオム、表現、音楽性、詩的感情などに迫ることであり、作曲家の情熱を垣間見ることにつながる。
 ラヴェルの作品は、通り一遍に弾かれると、興ざめしてしまう。いずれも匂い立つような色香が必要であり、リズム表現も特別なものが要求される難しい作品だからだ。
 原稿を書いていたそのアーティストも、「ラヴェルは難しい」と語っている。
 ピアニストの多くが「夜のガスパール」を最高傑作に挙げているが、この曲集もそのストーリー性と絵画的要素、各々の微妙なリズムと音色を的確に表現するのは至難の業である。
 それゆえ、「夜のガスパール」はいろんなピアニストの演奏を聴き比べると、まったく趣の異なる奏法と表現と解釈を味わうことができ、作品の奥深さに改めて驚かされることになる。
 今日の写真は、パリのラヴェルが住んだ家。記念のプレートが掲げられている。


 
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