Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

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チョ・ソンジン
 先週、韓国の若きピアニスト、チョ・ソンジンが来日し、ミニ・コンサートと懇親会を行った。
 チョ・ソンジンは現在16歳。2009年の浜松国際ピアノコンクールの最年少優勝者である。その記念演奏会が2010年7月に銀座ヤマハホールで開催され、聴きに行ったのだが、シューマンもショパンも非常にナチュラルな演奏で、解釈は古典的で伝統にのっとったものだった。
 もっとも強い印象を受けたのは、いずれの作品も完全に手の内に入っていること。それゆえ、作為的な面がまったく見えず、難度の高い箇所も楽々と弾き進めていく。
 そんな新たな才能を高く評価し、応援しているのが韓国出身の世界的な指揮者、チョン・ミョンフン。3月には「東芝グランドコンサート30周年記念コンサート」が開かれ、マエストロはチェコ・フィルハーモニー管弦楽団と日本各地を回る予定だが、このソリストにチョ・ソンジンが選ばれた。曲はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番である。
 それに先立って来日したチョ・ソンジンは、ショパンとスクリャービンの作品を披露したが、昨年同様、自然で流麗なピアニズムを存分に聴かせた。
 その後、懇親会に移ったとき、私を含め女性3人が彼の肌の美しさを話題にし、大いに盛り上がった。
「ねえ、チョ・ソンジンの肌って、いわゆる赤ちゃん肌よね。ゆで卵みたいにツルリとして、押すとプルンと戻ってくる感じ」
「何を食べたら、あんなにきれいな肌になるのかしら」
「キムチじゃない。唐辛子のカプサイシンが効くんだと思う」
「じゃ、今夜から早速食べようかな」
「でも、数年後にはあの肌にヒゲが生えて、いわゆる男性の肌になってしまうのよね」
「ううん、大丈夫。そんなにヒゲは濃くならないと思う」
「ああ、ヒゲの生えた彼の顔、見たくないなあ」
「アッハッハ」
 最後のバカ笑いは私です。こんなに間近にすばらしい才能を持ったピアニストがいるというのに、私たちの話題ときたら…。困ったモンだ。
 でも、インタビューだけはちゃんと行った。その様子はヤマハのwebサイト「音楽ジャーナリスト&ライターの眼」に書いたので、ぜひそちらもクリックしてほしいな。
 というわけで、そのサイトには写真も掲載しているので、美しい肌をじっくり見てほしいと思う。いや、これはまちがい。ぜひ、チョ・ソンジンの美しい演奏を聴いてほしい(笑)。
| 情報・特急便 | 18:24 | - | -
リスト・イヤー
 毎月のことだが、月末から月初めにかけては原稿の締切りが集中し、ほとんどトランス状態に陥る。
 いま抱えているのは、今年生誕200年のメモリアルイヤーを迎えたフランツ・リスト(1811〜1886)の原稿。各雑誌ともリスト特集を組み、この作曲家のあらゆる面をクローズアップした内容を組んでいる。リストその人の紹介だったり、CDだったり、曲目解説だったり…。
 メモリアルイヤーにはその作曲家の作品を収録したCDが多く登場し、またコンサートでも数多く演奏される。その作曲家をより詳しく知るチャンスの年となるわけだ。
 だが、アーティストにその話をすると、ほとんどの人が「メモリアルイヤーなんて関係ないよ」「私にとっては、毎年がベートーヴェンの年であり、ショパンの年であり、モーツァルトの年なんですよ」と異口同音に語る。ときどき、「私はメモリアルイヤーの年には、あえてその作曲家の作品は弾かないようにしている」と答えるあまのじゃくな人もいるくらいだ。
 しかし、昨年のショパン・イヤーは世界中がこの作曲家で盛り上がった。今年はどうだろうか。
 さて、そんな原稿に追われているときに限って、テニスのオーストラリアン・オープンが開催されている。私は1999年からスイスのロジャー・フェデラーを応援している。最初はいまのように顔色ひとつ変えない落ち着いたマナーの選手ではなく、コートでも大声で叫ぶ、ラケットはたたき壊す、審判に食ってかかる、アンフォーストエラーをするとキレる、というタイプだった。
 しかし、初めてヨーロッパのテレビでプレーを見たときから、そのしなやかなアーティスティックなプレーに魅了されてしまった。以来、ずっとフェデラーひと筋。2006年に初来日し、有明コロシアムでプレーをしたときには、仕事そっちのけで飛んで行った。幸い、とてもいい席が確保でき、フェデラーのすね毛まで見えるような近い場所で観戦できた。
 優勝後、インタビュールームに入っていく彼を近場でながめることもできて、至福のひとときを過ごしたものだ。(なんというミーハー)
 その話を女性誌の担当者に話したら、以後、彼女は私に送るメールには必ず「フェデラーのすね毛ウォッチャー 伊熊さま」とタイトルをつけてきた。まいりましたね(笑)。それだけ近い位置だったといいたかっただけなのに。
 というわけで、今回もずっと原稿の合間を縫ってはフェデラーの試合をちらちらと見ていたのに、昨夜準決勝で敗れてしまった。なんというショック。しばらくは何も手につかなかった。
 でも、こうなったら、もう仕事に集中するしかないな。また、次に期待しよう。ポール・アナコーン・コーチ、指導よろしく!
 今回の写真はその有明コロシアムで撮った1枚。ああ、美しかったなあ。私はフェデラーのようにバックはシングルハンドの選手が好きで、グラフもそうだったし、エナン、ガスケ、バブリンカ、みんな打ったあとの姿が実に美しい。
 なあんて寄り道していたら、原稿の催促がいくつもメールに入ってきた。担当のみなさま、遅れていてごめんなさい。もう私のオーストラリアン・オープンは終わったので、集中します。朝も夜も関係なく、土曜日も日曜日も休日返上でパソコンと仲良くしますから、許してね。
 今回は若き才能のライナーノーツもふたつ書き上げた。ひとりはすでに有名になった15歳のピアニスト、小林愛実の第2弾(EMI)。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」と第23番「熱情」、シューマンの「子供の情景」を収録している。またもやすごい集中力を感じさせる意欲作だ。
 もうひとりはウィーン留学中の17歳のピアニスト、諸戸詩乃。彼女はこの若さでシューベルトの「即興曲作品90」と「楽興の時」を録音しているから驚きである(カメラータ)。全編に詩情があふれ、とてもみずみずしい演奏に仕上がっている。
 さて、次の原稿にかかる前に大好きな紅茶を飲もうかな。と、また中断。私は紅茶に目がなく、お取り寄せで世界各地の紅茶を楽しんでいる。以前、ロンドンでヴァイオリニストのナイジェル・ケネディにインタビューをしたとき、彼は日に20杯くらいの紅茶を飲むといっていた。それにより、脳が覚醒するのだそうだ。私も脳を覚醒させて、さあ、もうひとふんばり。

| ああ愉しき(?)、締切り地獄 | 22:17 | - | -
レオン・フライシャー
 昨夜、ブルーローズ(サントリーホールの小ホール)で、レオン・フライシャーのリサイタルを聴いた。当初のプログラムと大幅な変更があり、その理由を本人がステージ上で述べた。半年前に右手の親指の手術をしたが、回復が遅れているため、右手の負担の少ないプログラムに変えたとのこと。
 この演奏評は、来月発売の「モーストリー・クラシック」に書くことになっている。
 フライシャー(1928〜)はロシア人の父とポーランド人の母を持つアメリカのピアニスト。歴史に名を残す偉大なピアニスト、アルトゥール・シュナーベルに師事したことで知られ、1952年にエリーザベト王妃国際コンクールでアメリカ人として初優勝を遂げ、華々しいキャリアをスタートさせた。だが、キャリアの絶頂期である1965年に突然右手がまひし、両手での演奏ができなくなってしまう。以後40年間は、指揮者、教育者として活動し、ピアニストとしては左手のための作品を数多く演奏してきた。
 そんなフライシャーがさまざまな治療の結果、両手による演奏が可能になったのが2004年のこと。直後にリリースされた「トゥー・ハンズ」(コロムビア)と題したCDは、世界中で大きな話題を呼んだ。このアルバムはJ.S.バッハのカンタータ「主よ、人の望みの喜びよ」(ピアノ編曲版)から始まっている。その演奏は純粋で敬虔で清らか。久しぶりの日本公演もこの曲で始まった。
当時、フライシャーは「ようやく両手での演奏ができるようになったんです。これほどうれしいことはありません。神に感謝しています。私はバッハが大好きなんですよ。苦難の時期にはバッハの音楽が唯一の救いでした。今後の人生はすべて音楽に捧げたいと思っています。作曲家の魂に寄り添うような演奏がしたいんですよ」と静かな口調で語っていた。
 そして、終演後にはいつも1杯のスコッチをおいしそうに飲むのが習慣だが、満足そうな表情でグラスを飲み干すと、こう続けた。
「現在は世のなかがとても騒々しく、時間の流れも速く、人間関係も複雑で心が休まるときがありません。私は人々に音楽で静けさと安らぎを届けたいんです。音楽にはその力があると信じていますから」
 まさにフライシャーのピアノは、聴き手の心に奥にゆったりと語りかけてくる音楽。私はストレスがたまると、いつも決まって何人かの演奏を聴くのだが、フライシャーもそのひとり。あんなに両手で演奏できることを喜んでいたのに、また今回調子が悪くなってしまった。早く回復することを祈るばかりだ。そしてまた、あの胸の奥が痛くなるほど熱い感動を呼び覚ますピアノを聴かせてほしい。

 今日の写真は2007年の来日時に王子ホールのロビーで撮ったもの。演奏が終わり、スコッチも飲み、そしてサイン会も終わって「ようやくひと息」のフライシャー。

| アーティスト・クローズアップ | 23:48 | - | -
ドヴォルザーク
 ドヴォルザークの生地ネラホセヴェスは、プラハの北北西30キロほどに位置する小さな村。スメタナの連作交響詩「わが祖国」の「モルダウ」で有名なモルダウ川(チェコ語ではヴルタヴァ川)がボヘミア盆地を北上してエルベ川に合流する、少し手前にひっそりとたたずんでいる。
 もうかなり前になるが、「プラハの春音楽祭」の取材に行った折、ぜひこの地を訪ねたいと思い、足を伸ばした。
 ドヴォルザークの生家は、リニューアルは施されているものの、当時と変わらぬ素朴な風情をたたえ、入口前にはどっしりとした体格の像が立っていた。ここはあたり一面がうっそうとした緑に覆われ、時折聴こえるのは鳥の鳴き声と樹木が風にそよぐ音だけ。空気はどこか高原を思わせる清涼さに満ち、時の流れが止まったかのよう。耳をすますと、遠くから教会の鐘の音が響いてくる。そのほかはほとんど人も見当たらず、静謐な空気がただよう。
 ドヴォルザークは鉄道を愛し、いつも作曲に行き詰ると汽車をながめに行き、ストレスから解放されたそうだが、この生家の前に古い線路の跡が残っていて、そのルーツを垣間見る思いがした。
 実は、昨年の11月にNHK BSのテレビ番組「名曲探偵アマデウス」のドヴォルザークの「スラブ舞曲」の回に出演し、ドヴォルザークについてコメントすることになった。放映は今年1月で、24日の放送と25日の再放送は済んでしまったが、27日のBShi(00:00〜00:44 26日深夜)と30日のBS2(18:00〜18:44)はまだ見られる。
 私の出番はほんのわずかだが、ここにとても貴重なドヴォルザークの人形が出演している。というのは、ネラホセヴェスを散策していたときに小さな古い小屋でタバコを売っている年配の男性がいて、そのタバコの脇にドヴォルザークの粘土で作られたような小さなお人形が置いてあった。
「これ、欲しいんだけど」と私がいうと、そのおじさんは「売り物じゃねえ」とひとこと。「それよりタバコ買って行きな。手巻きだぜ」。「でも、私はこのお人形が気に入ったの。日本からやってきて、もうここには2度とこられないかもしれないから、これ売ってください」。「ダメだ、ダメだといってるだろう。これは売るための物じゃねえんだ。ワシはタバコを売っているんだよ」。「すごく気に入ったの。値段つけて、自由に決めてよ」。
 こんな押し問答を繰り返しているうちに、おじさんはついに根負け。「持ってけ、ドロボー」的な言葉を叫び、むんずと人形をつかんで私の手に押しつけた。「それじゃ、そこにあるタバコ全部ちょうだい」。
 私は10箱ほどのタバコを全部買い、もういくらだったか忘れたが、無事にドヴォルザークをゲット。おじさんはお金を受け取るやいなや、手早く店じまいを始めた。
 という、いわくつきの人形が今回の番組にチラッと出演。スタッフがうまく登場させてくれ、実直そうな表情の顔がアップされたという次第だ。
 今回の写真はそのドヴォルザークのお人形。これ、本当にいい表情しているでしょう。私が各地から買ってきたさまざまなグッズを飾っている飾り棚のなかでも、ひときわ存在感のある顔をしている。
| クラシックを愛す | 14:10 | - | -
樫本大進
 ヴァイオリニストの樫本大進がベルリン・フィルのコンサートマスターに内定したのは、2009年夏のこと。その年の9月から実際にオーケストラに入って演奏を開始し、事実上の試用期間に入った。
 当時、彼は非常に緊張した雰囲気をただよわせ、「一応2年間という試用期間は、自分にとってとてもシビアなものになる」と語っていた。
 しかし、2010年12月、2年を待たずにコンサートマスターに就任。これはベルリン・フィルのメンバー、音楽監督のサイモン・ラトル、関係者から全幅の信頼を勝ち得たことを意味する。
 思えば、大進にはデビュー当初から取材やインタビューを行い、ボストンでの海外録音にも立ち会い、さまざまな演奏を聴き続けてきた。彼はどんなに大変なことに遭遇しても決してあきらめず、いつも笑顔で乗り切ってきた。おおらかで自然体で結構太っ腹(からだのサイズではありません〈笑〉)。
 そんな大進が盟友のピアニスト、コンスタンチン・リフシッツと組んでベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏に取り組んでいる。その第1回が2010年12月に日本各地で行われ、私は12月19日紀尾井ホールでの演奏を聴きに行った。以前から大進の弦は豊かにのびやかに歌うが、ベルリン・フィルに入って緻密さと構成力、説得力が増した。一方、リフシッツは天才性あふれるピアニスト。ヴァイオリンをしっかり支えながらも、自身の音楽を存分に発揮する。
 個性の異なる両者の丁々発止の音の対話は実におもしろく、ベートーヴェンを深く愛する二人の熱意が伝わってきた。
 終演後、「コンサートマスターに決まって本当によかったね。私もようやく心が落ち着いた感じ」と声をかけると、「うん、本当に安心した。でも、これからが本格的なスタートになる。気を引き締めて行かなくちゃ」といいながらも満面の笑顔。写真はその楽屋での1枚。
 大進、頑張れ! あなたの前には大海原が広がっている。
| アーティスト・クローズアップ | 17:23 | - | -
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